榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

個人発明家がアップルから3.3億円の賠償金を勝ち取るまでの苦難に満ちた戦い・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1328)】

【amazon 『iPod特許侵害訴訟』 カスタマーレビュー 2018年12月9日】 情熱的読書人間のないしょ話(1328)

散策中に、昼食処で一休みしました。因みに、本日の歩数は10,986でした。

閑話休題、『iPod特許侵害訴訟――アップルから3.3億円を勝ち取った個人発明家』(新井信昭著、日本経済新聞出版社)では、個人発明家・齋藤憲彦がアップルに対し特許侵害訴訟を起こし、遂に3.3億円の賠償金を勝ち取るまでの過程が臨場感豊かに描かれています。テレビ・ドラマ『下町ロケット ゴースト』の特許侵害訴訟場面はフィクションだが、こちらは、その実録版と言えるでしょう。

齋藤と、その協力者たち、弁護士や弁理士たちが力を合わせ、巨大企業相手の非常に困難な戦いに果敢に挑み、次から次へと立ちはだかる難関に直面するたびに、私も肩に力が入ってしまいました。

本書は、齋藤らの戦略や行動をフォローしていくうちに、特許に関するさまざまな知識が身に付くように、工夫が凝らされています。

「齋藤がアップルと戦うために使った武器は、ほかでもない『特許』だった。特許(特許権)は、アイデアで勝負する発明家にとって、この手しかないといってもいいくらいの手段である」。

「齋藤が発明家である理由はどこにあるのか、と改めて考えてみた。およそ発明するためには。現状に問題意識を持ち常に改善を忘れず、さまざまな分野の技術に対し好奇心を持ち続け、得た知識をいつでも検索できる形で頭のなかに整理してあるからだろう」。

「経営破たんによる簡単には返せない多額の借金があり、両親の財産を食いつぶしながら生活している齋藤にとって、齋藤出願は起死回生のための唯一の切り札であるのだから、たくさんの思いとノウハウが詰まった齋藤出願を『はい、実費でお譲りします』などといった選択は、過去の財産と齋藤の未来を放棄する愚かな行為そのものだと考えたからだろう」。

「『特許出願したときの私は、私が何を考えていたのかを知っている唯一の人間です。そのうえiPodのクリックホイールは100パーセント私のコンセプトそのもの。だから、誰が何と言おうと、どんな屁理屈を並べようと、私が負けたら、人類の進歩に対する冒瀆だと思った。だから、私は戦いを続けた』」。

「上山(弁護士)は、個人発明であろうと尊重されるべきだという信念と、自信を失いつつある日本のエンジニア達と日本経済へのエールを、事件を通して示そうとしたのだろう」。

「『特許』は、個人発明家が大企業と戦うためのまぎれもない武器である。が、それを持っているだけでは1銭にもならない。勝ちたいなら戦わなくてはならない」。

3.3億円を勝ち取ったというのに、これはアップルの実質勝訴だという考えが示されています。「傍から見ると齋藤の勝訴だが、上山も齋藤も『実質的には敗訴と同じ』と口を揃える。考えてみてほしい。一時はウォークマンをしのぐほど売れに売れたiPodであるが、売れた要因の半分とは言わないまでも3分の1、いやそれ以上が(簡単選曲の決め手となる)クリックホールにあったことは間違いない。その部分が特許権侵害であったのに、賠償額は僅かに3.3億円である。アップルの立場に立てば、痛くもかゆくもない金額だろう。実質的にアップルの勝訴と言わずして、何と言ったらよいのだろう」。