書物の破壊の研究に対する著者の執念が凝縮した一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1465)】
紫色のラベンダーが芳香を放っています。フレンチラベンダーは花序の頂点のウサギの耳のような苞が目立ちます。セイヨウジュウニヒトエ(アジュガ)が薄紫色の花をまとっています。アマドコロが白い花をぶら下げています。ボタンが白い花を咲かせています。白いモッコウバラが芳香を漂わせています。イヌコリヤナギの園芸品種・ハクロニシキの薄桃色・白色・緑色の葉が目を惹きます。ライラックが白い花を付けています。我が家の桃色のクルメツツジ(キリシマツツジ)の隣で白色のクルメツツジ(キリシマツツジ)が咲き出しました。
閑話休題、『書物の破壊の世界史――シュメールの粘土板からデジタル時代まで』(フェルナンド・バエス著、八重樫克彦・八重樫由貴子訳、紀伊國屋書店)は、古代オリエントから今日のデジタル時代までの書物の破壊の歴史が詳細に綴られています。
「書物の破壊の歴史という恥辱の年代記を破壊の原因別に見ると、全体の60パーセントは故意の破壊によるものだ。古代オリエントのシュメールの粘土板だろうが、2002年にヘブライ語の書物を焼いたフランス人司書だろうが関係なく、書物を破壊する者たちは、あらゆる文化に共通して見受けられる態度を示している。それは世の中の人間を『彼ら』と『私たち』に区別する傾向だ。これが行き過ぎると『私たち』以外は全員敵となる。そういった他者否定の基準のもとで、つねに検問は課され、知る権利は侵害されてきた。残りの40パーセントはそれ以外の要因で、内訳は1位が自然災害(火災、台風、洪水、地震、津波など)、次いで事故(火災、海難事故など)、天敵による被害(本につく虫、ネズミ、昆虫など)、文化の変化(言語の消滅、文学様式の移り変わりなど)、書写材の劣化(19世紀の酸性紙は何百万もの作品を破壊しつつある)と続く」。
個人的に興味深い記述にいくつも出会うことができました。
●プラトンの書物蒐集癖をよく知っているディオゲネス・ラエルティオスは、プラトンがライバル視していたデモクリトスへの言及すら拒み、著作を集めて燃やそうと考えたことを非難している。
●1920年、米国の裁判所は『アベラールとエロイーズ』の流通を禁じる判決を下した。その理由は彼(ピエール・アベラール)の著作が、過剰に人間の情緒を擁護し、知識人らを官能や性行為に導くからだという。
●(1555年に出版された、ノストラダムスの名で知られるミシェル・ド・ノートルダムの『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』の)初版本は今や完全な稀覯本となっている。出版されて以来、定期的に破壊されたためだ。
●ドイツ・ビーレフェルト大学のヴォルフガング・ユッテによると、ナチス政権下では5500人以上の作家の著作が破壊された。20世紀初頭のドイツ文化を代表する人々の作品が拒絶され、容赦なく焚書にされたということだ。・・・ドイツ敗戦直後の1945年春、米軍第101空挺師団が、バイエルン州ベルヒテスガーデンの町に程近い塩鉱山の坑道から、ヒトラーの個人蔵書を発見した。・・・後年、米国の歴史家ティモシー・W・ライバックの研究で興味深い事実が判明した。ヒトラーは無類の読書家であると同時に、古書にこだわる書物蒐集家でもあった。『ロビンソン・クルーソー』『ガリバー旅行記』『ドン・キホーテ』を高く評価し、『アンクル・トムの小屋』を愛読。聖書に精通し、ゲーテやシラーよりもシェイクスピアを好み、ショーペンハウアーやニーチェのみならず、米国の(反ユダヤ主義者)ヘンリー・フォード『国際ユダヤ人』やマディソン・グラント『偉大な人種の消滅』からも影響を受けていた。オカルトに入れ込み、エルンスト・シュルテルの『魔術――その歴史および理論と実践』に傾倒していたこともわかっている。その本に彼自らが下線を引いた箇所がある。<自分のなかに悪魔的な種を宿さぬ者に、けっして新たな世界を生み出すことはない>。
740ページという大部の各ページの隅々にまで、書物の破壊の研究に対する著者の執念が籠もっています。