榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

進化の行方はどこに転がるか分からないというのが、ダーウィンの考え方だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1822)】

【amazon 『ダーウィンの夢』 カスタマーレビュー 2020年4月9日】 情熱的読書人間のないしょ話(1822)

1時間ほど粘った甲斐があり、囀るウグイスの姿を捉えることができました。カンザン(関山)という品種のサトザクラ(ヤエザクラ)が見頃を迎えています。我が家のエビネが次々と花を咲かせています。因みに、本日の歩数は13,694でした。

閑話休題、池澤夏樹の『いつだって読むのは目の前の一冊なのだ』(池澤夏樹著、作品社)に唆されて、『ダーウィンの夢』(渡辺政隆著、光文社新書)を手にしました。

本書では、ダーウィンの進化論の核心が、あの手この手を使って説明されています。

「進化は、擬人法や目的論で語るとわかりやすい。しかしそこには大きな落とし穴もある。そこでダーウィンが持ち出した原理が自然淘汰だった。自然淘汰が作用する先に目的はない。ただ、生存繁殖率の違いがあるのみである。すなわち、たまたま利点をそなえたものが生き残り、その性質を子孫に伝えていく。その結果を後知恵で振り返れば、あたかも『見えざる手』が導いたかのような調和がもたらされる。そこではたらくのは、必ずしも競争原理だけではない。(水中から陸上への移行を成し遂げた、腕立て伏せのできる魚)ティクターリクの生き方のように、競争を避ける方向もありうる。新しい生き方が一つ増えれば、新しいニッチも生まれる」。

「生物進化の物語では、いったん絶滅した種族が再び現われることはない。生物の進化は枝分かれの物語であり、後戻りはできないからだ。現在の生物は、枝分かれを繰り返しながら、細枝であれ、なんとか保たれてきた血族の末裔なのだ。このことを見抜き、定式化したのが、誰あろうダーウィンだった。『地質学原理』を初めて読んだ時点のダーウィンは、まだ進化論者ではなかった。そのときの彼は、故郷の土手や庭に息づくさまざまな生きものたちが生を謳歌しているのは神の恩寵であると信じていた。もっとも、(『地質学原理』の著者)ライエルとて、進化論者ではなかった。ライエルが創造論者から進化論者に転向するのは、ダーウィンの『種の起源』発表以後のことであり、まだ遠い先の話だった。(ビーグル号の)最初の寄港地ブラジルに上陸したダーウィンは、初めて足を踏み入れた熱帯の自然の多様性に度肝を抜かれる。そこには、イギリスの自然では考えられないような生命の躍動があった。ダーウィンは陶然たる心持ちに浸る。『なぜこれほど多様な生物が存在するのか?』。それ以後のダーウィンを終生にわたって突き動かす大いなる疑問が湧いた瞬間だった。その後もダーウィンは、イギリスでは望めない驚きの体験を重ねていった。絶滅した巨大哺乳類化石の発掘、大河を隔ててすみ分けている2種類のレア(南アメリカにすむダチョウの仲間)、火山の噴火、巨大地震、アンデス山中での化石木(珪化木)との遭遇などである。すべては、たまたまビーグル号に乗船したおかげだった」。

「ダーウィンがビーグル号に乗船していなかったとしたら、歴史はどうなっていただろう。ビーグル号に乗船していたとしても、『地質学原理』を携えていなかったとしたら、どうだっただろう。あるいは、白亜紀末の大量絶滅で哺乳類が死滅していたとしたら、地球はどうなっていただろう。歴史にはたくさんの『イフ』が入り込む余地がある。いうなれば、無限通りの可能性が秘められたロールプレイングゲームのようなものだ。ゲームなら何度もやり直しがきくが、実際の歴史はやり直しがきかない。ラマルクの進化理論は、進化には方向性があるとの謂を含む考え方だった。一方、ダーウィンの進化理論は偶然の役割を重視する。進化の行方はどこに転がるかわからないというのだ。これは、考え方によっては虚無的で救いのない考え方である。なにしろ、この世は調和に満ちた世界などではなく、一寸先は闇だといっているに等しいのだから。ダーウィンの思想は危険だと表現した哲学者がいたが、まさにその通りというべきだろう。季節は巡るが運命は定まらない。われわれは、どこから来てどこへ行こうとしているのか。人々の惑いが始まった。ダーウィンが扉を開けた世界は、人々に否応なく人生の意味を自問させる世界だった」。

「ダーウィンの答は、『ヒトはすべての生きものと同じ祖先から来て、どこへ行くとも知れない』だった。不安なメッセージととるのはたやすいが、可能性は無限に広がっているという見方もできる。ともあれ命の絆は。かれこれ36億年以上もつながってきたのだから」。

巻末近くの「人類のショートジャーニー」の章では、研究の最新成果を踏まえて、人類の誕生以降の歴史が要領よくまとめられているので、私たちの知識を整理するのに役立ちます。

練達のサイエンス・ライター渡辺政隆の面目躍如の一冊です。