榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

独裁者を抹殺すべく、一人の美女が立ち上がった・・・【山椒読書論(575)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年8月10日号】 山椒読書論(575)

横山光輝のコミックス『三国志』(横山光輝著、潮出版社、希望コミックス・カジュアルワイド、全25巻)は、羅貫中の小説『三国志演義』→吉川英治の小説『三国志』の流れを汲んでいる。

第3巻 呂布と曹操」――。曹操は意気込んで董卓討伐に向かうが、敵の策略に陥り、曹操軍は壊滅してしまう。しかし、曹操は九死に一生を得る。

それはともかく、この巻が最高潮に達するのは、独裁者・董卓を抹殺すべく、一人の美女が立ち上がる場面である。

天子を凌ぐ勢いを示す董卓の傍若無人な振る舞いを憤る朝廷の重臣・司徒の王允に仕える貂蝉は、王允の役に立ちたいと念じている。「この貂蝉、赤子の時に奴隷としてお殿様に買われました。でもお殿様は私を自分の娘のようにお育てくださいました。私はこの大恩になんとかお報いしたいと思っていましたが、いまだにお報いできませぬ。お殿様、何をお悩みでございます」。

王允から悩みを打ち明けられた貂蝉と王允は、董卓と、董卓を支える猛将・呂布を仲違いさせることを企み、実行に移す。その目論見どおり、優雅に舞う貂蝉の天女のような美しさに魅入られた董卓と呂布の間に亀裂が生じる。そして、貂蝉に唆された単細胞の呂布は、董卓を斬り殺してしまうのである。「ここに栄耀栄華を極めた董卓の一生は幕を閉じた。年齢54歳。初平3年4月22日の真昼の出来事であった」。

胸に短刀を刺し自害した貂蝉。「貂蝉の死顔には微笑があった。それは女の身で大きな仕事を成し遂げた満足の笑みであった。しかし、呂布にはそれがわからなかった」。

貂蝉の美しさは、私もクラクラしてしまうほどだ。