日本の中世が、こんなにアナーキーでハードボイルドだったとは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2342)】
ヤマハギ(写真1、2)、ツルボ(写真3)、ハナトラノオ(カクトラノオ。写真4、5)が咲いています。キノコ(写真6~8)が生えています。
閑話休題、『室町は今日もハードボイルド――日本中世のアナーキーな世界』(清水克行著、新潮社)は、中世は、日本史上、最もアナーキーでハードボイルドな時代だと主張する著者の、中世を巡るエッセイ集です。
「リーダーの主導のもと社会が統御されることもなく、異質で多様な価値観が拮抗して、先行きが見えない物騒な時代」だったというのです。
例えば、人身売買の章は、こんなふうです。
「当時、売られた男女は『下人(げにん)』とよばれる奴隷とされ、裕福な家の召使いとして使役されることになった。・・・まさに非人間的な『奴隷』としての扱いである。ちなみに、当時の人身売買の標準相場は一人につき銭2貫文。現代の価値には単純に換算できないが、米相場から類推すれば、1貫文はおよそ10万円ぐらい。つまり、わずか20万円ほど、安い中古バイク1台ていどの値段で、人間ひとりが売買されてしまうのである」。
「鎌倉初期、大隅国の建部清綱という武士が、財産を子供たちに相続させるために作成した財産目録が残されている。それなどを見ると、彼の所有していた下人は、なんと95人にものぼる。・・・これらの目録はいずれも遺産相続を前提にして作成された文書なので、彼ら下人たちは主人の死後、『財産』の一部として遺族たちで分配されてしまうのである」。
「こうした富豪による大土地経営が大規模に展開されたのが、とくに東北地方だった。・・・東北地方はいまだ未開の荒野が広がるフロンティアだったのである。そこにはまだ土地は無限にあり、労働力を投下すればするだけ、富を生み出す余地があった。当然ながら、東北地方での労働力需要は高かった。・・・当時、身売りしたり、かどわかされた少年・少女は、フロンティアである東国に投入されるというのが定番だったのだ。・・・当時の東北地方では、労働力の奪い合いが紛争の焦点になっていたのだろう。中世末期の日本の農業開発は、彼ら下人たちの辛苦で担われていたのである」。
「室町時代は飢饉や戦乱で人身売買がさらに盛んに行われた時代だが、唯一の救いは、そうしたなかで、『自然居士』や『隅田川』など人身売買を『悲劇』とする文芸が多数生まれたという点だろう。一方では鎌倉時代以来の『餓身を助からんがため』人身売買を許容する風潮も根強くあったが、時代はしだいに人身売買を『悲劇』として語るようになり、人々に『人身売買は克服すべき悪弊である』という自覚が生まれていったのである。ここに、わずかながらの歴史の『進歩』を認めることができるかも知れない」。
アナーキーでハードボイルドな中世に張り合うかのように、著者も、どうして、どうして、アナーキーでハードボイルドです。