生き物と会話ができるドリトル先生に会えてよかった・・・【山椒読書論(14)】
【amazon 『ドリトル先生航海記』 カスタマーレビュー 2012年3月8日】
山椒読書論(14)
子供の頃、読まずに過ぎてしまった「名作」を、大人になってから読むと、やり残した宿題を仕上げたような気分になる。『ドリトル先生航海記』(ヒュー・ロフティング著、井伏鱒二訳、岩波少年文庫)でも、このような達成感を味わうことができたが、その上に、いくつかの発見があったのである。
先ず、主人公の医師・博物学者のジョン・ドリトル先生が大変な動物好きで、哺乳類、鳥類、魚類などの言葉を解し、彼らと会話を交わせるということ。私のような生き物好きにとっては最高の夢を実現しているのだ。
そして、ドリトル先生は小柄でかなり太った人物として描かれていること。人間は見た目でなく、その中身――勉強家、研究熱心、冒険心旺盛、人にも生き物にも優しい心の持ち主――が大切だと、読者に伝えているのだ。
ドリトル先生の口を借りて、「いま人のうわさにうるさい、あの若いチャールズ・ダーウィンという男は、ケンブリッジ大学の卒業生で、読み書きにひいでておる。それから、キュヴィエは先生をしておった」と、ダーウィンやキュヴィエに言及しているのも興味深い。
また、ユニークな挿し絵が私たちの想像力を掻き立ててくれること。
さらに、訳者が、『山椒魚』といった短編小説や、「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」という漢詩の大胆な訳で知られる井伏鱒二という大物であること。
ドリトル先生物語の12冊に上るシリーズは、ロフティングが自分の子供たちに向けて書いた童話ということだが、こんな父親を持てたら、どんなに楽しいことだろう。