私のところにも、ポーラーレディが来てくれないかなあ・・・【山椒読書論(689)】
コミックス『西岸良平名作集 ポーラーレディ』(西岸良平著、双葉社)に収められている「ガラスのネクタイ」は、夢のある現代のシンデレラ・ボーイの物語だ。
清原慎一に中学校のクラス会の案内状がくる。「中学を出てから12年か・・・クラスの連中もみんな立派になっただろうなあ・・・あの頃が一番楽しかったなあ・・・中学時代は優等生、野球部じゃエースの4番でクラスの人気者・・・そして、みんなに祝福されて県立の名門高校にも進学したのに・・・高校じゃ、まわりは秀才ばかりで、授業について行けず落ちこぼれ・・・野球部じゃレギュラーになれず万年補欠。やっと卒業して就職した会社は倒産するし・・・うっかり他人の保証人になったおかげで、借金をしょい込んだり事故をおこしたり、悪い事ばかり・・・だめだ、クラス会なんて出席できないや。金もないし失業中のこんなみじめな状態じゃ・・・」。
「とうとう今日がクラス会の日か・・・」。そこに、魔法をセールスするポーラー社のポーラーレディが訪れる。「今晩の同窓会にだけ間に合えば良いんでしたら、こちらの限定半日コースなどいかがでしょう? これはその昔、シンデレラが使ってお城の舞踏会に出かけたのと同じ魔法なんです。効果は夜中の12時で消えてしまいますけど、大変お安くなっておりますのよ・・・」。「それから、これは特別セール期間中のサービス品でございます。ガラス繊維を編んだ特別製の・・・幸運を呼ぶガラスのネクタイですわ」。
魔法のおかげで同窓会を楽しく過ごし帰る途中、魔法がとける12時が近づき慎一は慌てるが、ひき逃げされた浮浪者を見つけ、病院に運び込む。ガラス繊維のネクタイでひどい出血を止めて。
それから2カ月後――。慎一に助けられた人物が訪ねてくる。「本当の正体は、さる大コンツェルンの会長なのです。お恥ずかしいが・・・時々気晴らしに、あんなかっこうで庶民の生活を覗くのが趣味でしてな、ハハハ」。
「長い間、不運続きだった彼の人生にも、こうして、ささやかな幸運の光がさしはじめたのだった。たった一本のガラスのネクタイがきっかけで・・・」と、物語は結ばれている。
私のところにも、ポーラーレディが来てくれないかなあ。