サラリーマンのライバルという存在を考えさせられる作品・・・【山椒読書論(615)】
【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月28日号】
山椒読書論(615)
コミックス『人間交差点(10)―― 一輪』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「置き去り」は、サラリーマンのライバルという存在を考えさせられる作品である。
「どこに出向することになったんだ?」。「静岡にある小さな自動車部品工場に決まったよ・・・。年収は今より30%減だが、65歳まで働けるそうだ。そこで15年、総務部長として頑張ることになった」。「業界4位の大手商社、伊勢崎商事の部長までいったおまえが町工場の総務部長さんか。・・・俺は名古屋のバルブ専門会社の業務部長だ。年収は20%減だが、定年は60歳・・・どうも俺とおまえは最後まで勝ち負けがはっきりしない競争を続けてしまったようだな、ハハハハ」。
「俺達は、30年近い間、同じ会社に勤めていた・・・そして、お互いがライバルだった」。「俺は初めてだ。おまえとこんなに気を張らず、話が出来るなんて初めてだ」。「・・・俺もだよ」。
二人は、それぞれが出向する現地に赴く途中の温泉でゆっくりする機会を持った。「お互いに長生きしような!」と別れたのに、「それから、わずか1年後に横田の奥さんから彼の訃報を聞かされようとは、俺は夢にも思っていなかった」。
山脇は、横田の葬儀の場で、横田と不仲だった息子と初めて会ったのだが、二人の間に何が起こったか・・・。