資料や本を見た瞬間に、内容を理解し、コメントを言える「超速読力」の勧め・・・【情熱の本箱(284)】
『超速読力』(齋藤孝著、ちくま新書)を読んで、我が意を得たりと、ほくそ笑んだ。著者の提唱する「超速読力」を用いた読書法こそ、現在、私が実践している読書法そのものだからである。
「『超速読力』とは資料や本をパッと見た瞬間に、内容を理解し、コメントを言える力のことです」。ただ速く読めればいい、というのではないと付言している。
「会議ではつねに自分の意見を言うことを意識する」。企業人時代の私は、常に、このことを意識し、実行してきた。こうすることによって、会議に主体的に参加できるだけでなく、会議をリードすることが可能になるからである。
「資料や本を読むときは、そのあと(コメンテイターとして)テレビに出て意見を言うのだと思っておくといいと思います」。こういう気持ちで読むと、確かに集中力が高まる。
「瞬間的に大物を見つけて仕留める『瞬殺者』になるのが、この本の目的です。・・・『瞬殺力』を養う機会は豊富にあるわけです。何を見るときも、『絶対に獲物をとろう』という姿勢でのぞめば、『獲物』をとる経験値が高まります。『獲物』をとろうとしていないから勘が磨かれないだけです」。「瞬殺者」になるぞという意気込みで本に向かうと、本当に、森の奥に隠れている「獲物」が見えてくるから不思議だ。
「資料を読むとき最後から逆算する読み方は、ときとしてひじょうに短時間で全体を理解するのにとても役立ちます」。私の場合は、本の帯のキャッチ・コピー、著者・訳者のプロファイル、解説、後書き、前書き、目次の順で目を通し、全体像を荒掴みするようにしている。
「実は、『超速読力』を支えているのは、知識の量です。読む前から5~6割くらい内容を知っていれば、読むのが速くなります。なぜかというと内容をすでに知っているからです。初めての分野の本を読むときは、最初の1冊目はもたもたして時間がかかります。でもその1冊を読んでおけば、似たようなテーマで別の著者でもすっと読めます。・・・ですから同じような分野で、別の人が書いたものを3冊、5冊と読んでいくことをおすすめします。そうすれば知識がおおよそ身について、どんどん読むのが速くなっていきます。・・・知識があるので、次の本を読むのが速い。しかも本を読み慣れているので、大事なところを見つけるのが速いのです」。全面的に賛成である。
「教養として必要な世界の名著や古典も、『超速読』の方法を使って本質に迫ることができます」。この指摘にも、同感だ。
「本当にその本が自分にとって意味があるものにしていくには、『これからゲーテ先生に接見できるのだ。接見時間は5分しかないぞ』という気持ちで、本に人格として出会うことが重要ではないかと思います」。さすが齋藤孝、こういう表現はなかなかできないものである。
著者は、最終章で、「実際に小説や古典を『超速読』してみよう」と呼びかけている。この呼びかけには異論がある。古典はともかく、小説は「超速読」ではなく、じっくりと味わいながら読むべきと、私は考えているからだ。どれほど「超速読力」が身に付いていようとも、小説だけはじっくりと味わいながら読むことを、私は棺桶に入る直前まで続けたいと考えている。