榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

不機嫌なリーダーを持つ組織の不幸・・・【リーダーのための読書論(7)】

【医薬経済 2007年10月01日号】 リーダーのための読書論(7)

「勉縮」のすすめ』(松山幸雄著、朝日文庫)所収の「不機嫌な指揮官をもつ不幸」という文章は、短いが、なかなか刺激的である。権力を持っている人間ほど部下や妻子の前で不機嫌な顔をするな、というのだ。人間の「有能」、「無能」なんて紙一重、決定的な差は「上機嫌な人」か「不機嫌な人」かだけだという著者の意見に賛成である。ノーベル賞を二つも三つも取るくらい有能ならともかく、組織に所属する私たち凡人は自分の得意技を磨いて、仲間のウィーク・ポイントをカバーし合いながら、お互いに気持ちよく仕事をする義務があると思う。

「競争社会における実力と肩書」、「うっぷん晴らしでない酒を」といった小見出しからも分かるように、どうしたら組織全体に活力が漲るかという問題に直面した時、この本が、個人と組織の関係を考える手がかりを与えてくれる。

上機嫌の作法』(齋藤孝著、角川oneテーマ21)は、「不機嫌」の背景、悪影響とその脱出法、リーダーが「上機嫌」を身につける必要性とその方法を、明快かつ上機嫌に述べている。

著者は、不機嫌が許されるのは赤ん坊か天才だけで、特にリーダーの不機嫌は許されないと強調している。例えば、部下が不機嫌な場合は、上司が部下に注意を促すことも可能だ。しかし、逆の場合は、部下が上司に「不機嫌は止めてください」とは言えないだろう。ただただ上司の機嫌をとるか、嵐が過ぎるのを待つということになり、結局のところ周囲の人々の多くの時間が無駄に使われることになると告発している。

一方、仕事ができる人には上機嫌な人が多い。本当にできる人は、テンションが高く、上機嫌、一つずつの動作、話すテンポが速い。頭の回転が速い分、コミュニケーションの速度も速くなる。一流の経営者は、時々キレることがあるかもしれないが、基本的にハイ・テンションの状態を保っている人が多い。

では、どうすれば「不機嫌な人」から「上機嫌な人」に変身できるのか。著者は、「ふっきり上手」になることだと言う。執着、思い込み、欲望、嫉妬など何かに囚われる気持ちをスパッと断つ。さらに一歩進めて、「自分を笑い飛ばす力」は、上機嫌力の技としてはかなり上級だと言う。欧米人と比較して、日本人はユーモア、エスプリの感覚が乏しい。ジョークは技なので、訓練を積んでいないと言えない。場を盛り上げ、気分をほぐし、相手と自分の関係をもっといい状態にしようという明確な意思のないところに、ジョークは生まれない。ただ人がいいのではなく、ジョークの二つ三つも飛ばせる、気の利いたことを言うぐらいであってほしい。ニコニコしていて穏やかという状態は、目指すほどのレベルではない。目標とする「知性のある上機嫌さ」は、ひねりの利いた冗談や、当意即妙な返答によって、相手とコミュニケーションするというものである。

自分が笑顔でいられる状態を、意識的に作り出す。これを繰り返すうちにそれが技になって、どんな時でも上機嫌が可能になる。このように機嫌を技として捉え直すことは、著者独自の考え方だ。

上機嫌な人同士が接触して生じるエネルギーには、膨大な可能性がある。そして、下手な占いを信じるよりも、上機嫌力を身につける方が、確実に運を引き寄せる。私たちがどんな人に惹かれるか思い起こせば、分かりやすい。それは、いつでも上機嫌な人だ。