榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

すべての戦争は自衛から始まる・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3035)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年8月9日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3035)

ゴーヤー(写真1)が実を付けています。我が家の庭の片隅でツユクサ(写真2)が咲いています。

閑話休題、『歯車にならないためのレッスン』(森達也著、青土社)で、思わず、大きく頷いてしまったのは、●匿名のSNS、●元首相銃撃、●自衛と戦争――の3つです。

「分不相応ではあっても、今の社会や政治について物申すことはしていいはずだ。・・・歯車は重要だ。でもこのとき、何か変だなとかちょっと違うかもと思ったとき、それを言葉にしたり動きで示したりすることを忘れない側でありたい。違和感を表明できる歯車であってほしい。それだけで集団の暴走や過ちは、大きく回避できると思うのだ」。

●匿名のSNS
「ネット上に氾濫する情報の多くも、匿名の誰かによってアップされているから、虚偽がとても多い。ツイッターなどのSNSで、自分の実名を名乗る人はきわめて少数派だ。2014年に総務省が発表した情報通信白書によれば、アメリカやイギリス、フランス、韓国、シンガポールなど世界の多くの国でSNSの匿名率は30~40パーセント台だが、日本の匿名率は75.1パーセントだ。圧倒的に高い。おそらくだけど世界一だ。要するに被害者や加害者など少数派は実名で晒し、これを攻撃する自分たちは匿名で身を隠している。だからこそ誰かを追い詰めたり罵倒したりできる。その背景には、集団の中に埋没して個を隠そうとする日本社会の特性が表れている。人は一人では生きられない。集団の中で生きる。それは大前提。でも集団や組織に埋没すると、大きな過ちを犯す。もっと個を出すべきだ。特にジャーナリストならば」。

●元首相銃撃
「それ(銃撃)から1週間が過ぎた。今日のNHKのニュースでも容疑者の動機について、『宗教団体と安倍首相が近しい関係にあると思い込み』とアナウンスしている。『思い込み』というフレーズが示すことは、事実は違うということだ。でも違わない。命を奪うことは論外としても、近しい関係にあったことは、事実なのだ。『思い込み』というフレーズは使うべきではない。もちろんその程度のことは、メディア関係者の多くは知っている。でも『思い込み』に代わる言葉を思いつけない。『宗教団体と安倍首相が近しい関係にあると知り』とアナウンスすべきとは思っても(これがいちばん正確だ)、この段階では自民党や支持者からすさまじい抗議が来ることは目に見えている。旧統一教会が母体である国際勝共連合が日本にできたとき、安倍元首相の祖父である岸信介元首相は、積極的にこれを支援した。反共だけではなく改憲や儒教的価値観に裏打ちされた家族観、夫婦別姓への反発や反ジェンダー思想など、自民党と旧統一教会の思想的傾向はきわめて近い。特に第二次安倍政権においては急激に距離を縮め、安倍元首相以外にも多くの議員が、旧統一教会関連の行事やパーティに積極的に出席している。・・・それともうひとつ。結果としてメディアと一部の政治家は、この殺人事件を政治的な目的があるかのようにフレームアップしている。つまりテロの捏造だ。しかも選挙直前。テロという文脈で消費される事件。喚起された不安と恐怖は二元化を促進し、新たな『こんな人たち』(安倍元首相が反対派の聴衆を指して言った言葉)を見つけだして、攻撃しようとする。なぜなら敵を探したい彼らにとって、攻撃は最大の防御なのだから。こうして日本の変化は加速する。国葬など絶対にありえない」。

●自衛と戦争
「すべての戦争は自衛から始まる。それは日本も北朝鮮も同様だ。かつてのアメリカも今のロシアも、大義として掲げるのは自国民の保護や国家の自衛だ。国民のあいだで危機意識が高揚したとき、対外的に強硬な政治リーダーが支持される。こうして政治権力は暴走する。だからこそ権力を監視するメディアの存在が重要だが、この国のメディアはどこまで期待できるのだろう。残念ながらこの状態になったとき、対外的に強硬なメディアのほうが、視聴率や部数を稼ぐことは歴史が証明している。・・・出口なし。僕は湿った吐息をつくばかりだ」。

おっと、もう1つ、ありました。
●仕切り入りベンチ
「仕切りは駅のホームだけではない。サリン事件以降、公園や往来など日本中のベンチに、仕切りが入れられるようになった。つまりベンチに寝る(要するにホームレス的な)人の排徐が目的だ。これで安心を得ることができるのだろうか。僕にはそうは思えない。失った寛容さと引き換えに高揚したセキュリティ意識は、安心したいがゆえに次の標的を見つけようとする。もしも見つからなければ、無理やりに可視化する。こうして国は大きな過ちを犯す。歴史はそんな過ちのくりかえしだ」。

「これまで多くの国を訪ねたけれど、街で日本のような仕切り入りベンチを見た記憶はほとんどない。もちろん韓国も。たかがベンチ。されどベンチ。暖かい部屋でベッドに眠れない人を、不審者として排除するベンチ。僕には今の日本のひとつの象徴のように思えて仕方がない」。