榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

歯科疾患が全身疾患を発症させ、増悪させていた・・・【続・リーダーのための読書論(35)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2013年11月11日】 続・リーダーのための読書論(35)

専門書以上の内容

医者は口を診ない、歯医者は口しか診ない――医科歯科連携で医療は大きく変わる』(相田能輝著、医薬経済社)には、驚くべきことが書かれている。これまで新聞報道などで断片的に知らされてきたことが、ドーンとまとめて提示されている。180ページほどの本だが、専門書に優るとも劣らない内容を備えている。

歯科疾患と全身疾患の関係

歯性病巣感染や菌血症、歯周疾患が全身疾患に及ぼす悪影響とその対策が、豊富な事例に基づいて示されている。

例えば、IgA腎症――腎不全を引き起こす代表的な慢性腎疾患の一つで、30年でほぼ半数が透析や腎移植に至る――の原因は咽頭や扁桃にあると気づいた腎臓専門医がいた。堀田修が開発した「扁桃摘出術+ステロイドパルス療法」が目覚ましい治療効果を示すため、現在では、全国の大学病院・腎臓内科の実に96.6%で実施されている。

関節リウマチの患者特有の匂いが口腔内の炎症に起因すると気づいた内科医がいた。今井一彰が提唱する「口呼吸から鼻呼吸への転換+運動+歯科治療」により、格段に良好な治療効果が得られている。「歯の治療をしてリウマチの患者さんが歩けるようになった例などいくらでもあります。全身の健康の入り口はまず口なのだ、ということが広く認識されるようになれば、歯科医院の数が足りなくなるのではないかと危惧すらしています。そのためには、これからますます医科歯科連携を推進していかねばならない時期にあると実感しています」。この言葉に、認識を新たにする歯科医師が多いことだろう。

「不良な口腔衛生状態のベーチェット病への影響は甚大」と気づいた総合内科専門医がいた。鈴木王洋は、「不良な口腔衛生状態に関連して白血球が活性化することによって発症・増悪する疾患――掌蹠膿疱症、ベーチェット病、潰瘍性大腸炎など――があります」と述べている。鈴木は、慢性口腔・咽頭感染が原因で他の疾患が新たに生じるメカニズムを大きく6つに分類しているが、そこに挙げられている疾患の多さには呆然としてしまう。

医師と歯科医師の連携

「口腔は呼吸器や消化器の入り口」なのだから、歯科医師は歯科疾患だけを治療すれば事足りるのではなく、全身のあらゆる疾患との関わりを意識すべき、一方、医師は対象疾患の従来の診断・治療法に囚われることなく、積極的に口の中も見るべき――というのが、著者の主張である。

医師と歯科医師の緊密な連携が患者を救うと痛感させられた一冊である。