もっと若い時に稲盛和夫の本を読んでおけばよかった・・・【あなたの人生が最高に輝く時(15)】
食わず嫌い
これまで、食わず嫌いで稲盛和夫の著作は読んだことがなかったが、テレビ番組「カンブリア宮殿」で、日本航空再建について村上龍と小池栄子の質問に誠実かつ丁寧に答えている稲盛を見て、急に稲盛のことが知りたくなった。そこで、手にしたのが『生き方――人間として一番大切なこと』(稲盛和夫著、サンマーク出版)である。
経営者の著作
松下幸之助の『道を開く』『商売心得帖』、本田宗一郎の『スピードに生きる』、石橋信夫の『不撓不屈の日々』、小倉昌男の『経営学』、青木定雄の『社長の哲学』、岡野雅行の『僕が、つくる!』、永守重信の『情熱・熱意・執念の経営』など、強固な信念を持った経営者の著作はいずれも刺激的であるが、この『生き方』からも多くのことを学ぶことができた。もっと若い時に読んでおけば、私の人生ももっと充実させることができただろうにと悔やまれる。
生き方の基本
稲盛の生き方の基本は、「一つのことに打ち込んできた人、一生懸命に働きつづけてきた人というのは、その日々の精進を通じて、おのずと魂が磨かれていき、厚みのある人格を形成していくものです。働くという営みの尊さは、そこにあります。心を磨くというと宗教的な修行などを連想するかもしれませんが、仕事を心から好きになり、一生懸命精魂込めて働く、それだけでいいのです」、「自分がなすべき仕事に没頭し、工夫をこらし、努力を重ねていく。それは与えられた今日という一日、いまという一瞬を大切に生きることにつながります」と、非常にシンプルだ。
人生をよりよく生き、幸福という果実を得るには、どうすればいいのか。この問いに対する答えを、著者は「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という掛け算の式で表現している。「能力」は多分に先天的は資質を、「熱意」は自分の意志でコントロールできる後天的な要素を意味している。どちらも0点~100点で表現する。「考え方」は3つの要素の中で最も重要なもので、マイナス100点~プラス100点の範囲で表す。ということは、能力と熱意に恵まれていても考え方の方向が間違っていると、この式の積がマイナスになってしまうということだ。
では、プラス方向の考え方とは、どういうものか。著者は、「つねに前向きで建設的であること。感謝の心をもち、みんなといっしょに歩もうという協調性を有していること。明るく肯定的であること。善意に満ち、思いやりがあり、やさしい心をもっていること。努力を惜しまないこと。足るを知り、利己的でなく、強欲ではないことなどです」と、具体的に述べている。
心の転換点
京セラとKDDIという2つの世界的大企業を創業した著者であるが、若い時から順風満帆だったわけではなく、失敗と挫折の連続であった。中学受験に失敗。当時は不治の病とされていた結核に罹患。大学受験も第一志望は不合格。地元の大学を出たものの、不景気で就職難のため、不本意ながら、赤字続きで今にも潰れそうな京都の小さな碍子製造会社に入社。相次ぐ同僚たちの退職。この時点で、状況がこれ以上悪くなることはないだろうと腹を据え、心の持ち方を変えて、連日、工夫を重ねつつ研究・実験に打ち込んだ著者は、僅かな期間で、新しい材料を作ることに成功する。「それは、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)の研究所が、その1年ほど前に世界で初めて合成に成功したという新素材で、しかも、私が合成に成功したものはまったく同じ組成でありながら、その合成方法はGEと全然異なるものでした。つまり私の方法論は世界に類のないまったくオリジナルなものだったのです。精密は設備を使って理論的な実験を重ねたわけではありません。京都のちっぽけな碍子メーカーの、名もない一研究員が、徒手空拳のまま行ったことが、世界のGEに匹敵する成果を上げた――まぐれ当たりとしかいいようのない幸運ななりゆきでしたが、しかし不思議なことに、そうした幸運はその後もずっと続き、その会社を退社して京セラを設立してからも、私と私の会社をどんどん成長させていったのです」と、何事にも謙虚な稲盛にしては珍しく、往時の誇らしげな気分がストレートに伝わってくる。
先ず願望せよ
「思いを実現させる」ことについて、「その人の心の持ち方や求めるものが、そのままその人の人生を現実に形づくっていくのであり、したがって事をなそうと思ったら、まずこうありたい、こうあるべきだと思うこと。それもだれよりも強く、身が焦げるほどの熱意をもって、そうありたいと願望することが何より大切になってきます」と語っている。「寝ても覚めても強烈に思いつづけることが大切」だというのだ。「いっけん無理だと思える高い目標にもひるまず情熱を傾け、ひたむきな努力研鑚を惜しまない。そのことが私たちの能力を、自分自身もびっくりするほど伸長させる。あるいは眠っていた大きな潜在能力を開花させるのです。ですから、できないことがあったとしても、それはいまの自分にできないだけであって、将来の自分になら可能であると未来進行形で考えることが大切です。まだ発揮されていない力が眠っていると信じるべきなのです」という著者の主張は、体験を踏まえたものだけに説得力がある。
死をどう考えるか
仏門に入り、「死によって私たちの肉体は滅びますが、心魂は死なずに永世を保つ」と信じている著者にとって、この考え方はバックボーンとなっている。著者の生き方、考え方に心から敬服しているが、私自身は、「死んだら、肉体も精神も無に帰す」と考えている。