原発を止めると日本経済は破綻するというのは、本当か・・・【山椒読書論(466)】
私は、原発は即時ゼロにすべきと考えている。所詮、「トイレなきマンション」に人間は住めないからである。一方、「原子力ムラ」の住人ならびにその追随者たちは、原発を止めると日本経済は大変なことになると主張している。
『原発ゼロで日本経済は再生する』(吉原毅著、角川oneテーマ21)は、この「原発ゼロ=日本経済破綻」説を完膚なきまで粉砕している。
「原発推進派の主張は東日本大震災以降、政界や経済界、原子力学者たちから何度も発信されてきた。大新聞やテレビを介して伝えられた声を要約すると、次のようになる。『原発を止めると日本経済は大変なことになる』。果たして、稼働原発ゼロが続いてきた日本経済は、本当に大変な事態に陥っているのだろうか。答えはノーだ」。
「福島第一原発事故の原因は究明できたのか。汚染水はどこでどう処理するのか。核のゴミの問題に道筋はついたのか――。何ひとつ解決していないにもかかわらず、まさに官民が一体となって、原発再稼働をなし崩し的に推し進めようとしている。そして、それを強力にプッシュしてきたのが財界のトップたちである」。
「電力会社はリスクの高い原発をなぜ再稼働させたがるのか。政界や経済界で原発依存社会への回帰を望む声が多いのはなぜなのか。世界有数の地震国である日本になぜ数多くの原子炉が建設されるに至ったのか。そして、原発がすべて止まったままだと、日本経済は本当に壊滅的な打撃を被ってしまうのか」。これらの疑問に対する答えが、論拠を示しながら、明快に、冷静に明かされていく。
原発ゼロでも日本経済は揺るがない、むしろ、原発ゼロは日本経済再生のチャンスだと著者が力説しているが、具体的な事実や数字に裏付けられているので、非常に説得力がある。「こうして様々な事実を見ていくと、二酸化炭素を大量に排出する火力発電は地球にとって優しくないとする『原子力ムラ』の前提は、根底から崩れることになる」。火力発電が地球温暖化を進めるという仮説も、著者の事実に即した反論の前に顔色を失っている。
著者の結論は、至ってシンプルだ。「ここまでひとつずつ紐解いてきた答えを踏まえていけば、日本に求められる電力の形態はおのずと化石燃料による火力発電へと行き着く」。「一定量の電気を安定して供給できる『ベースロード電源』として、シェールガスや褐炭に代表される化石燃料発電は十分に対応できる。その間に再生可能エネルギーの研究や開発を進めていけば新たな分野での雇用が生まれるし、もちろん原発を再稼働させる必要もない。原発推進派もIGCC(①石炭を蒸し焼きにした際に発生する一酸化炭素や水素などの可燃ガスを燃料にしてガスタービンを回して発電する、②その際の排熱を利用して蒸気タービンを回してもう一度発電する、③この2段階の発電によってエネルギー利用率を高める仕組み)などの新しい火力発電の擡頭を脅威に感じたからこそ、地球温暖化問題をまず持ち出して火力発電を潰しにきたと思っている」。
それにしても、アメリカの素早い変化には驚かされる。「アメリカの原発メーカー、ゼネラル・エレクトリックのCEOジェフ・イメルトはこんなコメントを残している。『これからの電力は原子力ではなく、太陽光とシェールガスに移行するだろう』。福島第一原発事故を受けて、アメリカの原子力規制委員会(NRC)は『新規の原発はいっさい認めない』というスタンスを打ち出し、稼働中の原発についても更新を見送ることを決めている。ゼネラル・エレクトリックだけではない。エクセロンやサザンカリフォルニアエジソンなどの有力企業が、次々と原子力事業から引き上げている。2012年10月にはエネルギー産業の大手ドミニオンが、ウィスコンシン州で稼働させていたキウォーニー原発を廃炉にすると発表した。天然ガスの産出量が激増したことに伴い、電力価格が低下した中で競争力を失った原発が歴史の幕を閉じる第一号となった。翌年2月にはアメリカ最大の電力会社デューク・エナジーも、フロリダ州にあるクリスタルリバー原発の廃炉を決めるなど、脱原発の流れは加速している。理由は間接費用を含めれば圧倒的に高くなる原発のコストにあり、シェールガス革命によってもたらされた、新エネルギー時代のもとで生まれるビジネスにチャンスのにおいを感じたからだ。さらにつけ加えれば、福島の地で起こった未曾有の事故で目を覚まし、思い上がっていたそれまでの自分たちを恥じたからではないだろうか」というのだ。
最後に、著者の恩師である高名な経済学者・加藤寛の文章の一部を引用しておこう。「原発はあまりにも危険であり、コストが高い。ただちにゼロにすべきです。原発がなくても日本経済は問題ないことは、今年(2012年)の原発ゼロですでに実証されています。火力発電だけで電力は十分に供給可能です。・・・松永安左エ門のつくった九電力体制は、地域分割で独占の弊害を是正しようとしたものですが、今では、政府と癒着し、利用者、国民を無視し、さらに原子力ムラという巨大な利権団体をつくってマスコミ、そして国家をあやつるなど、独占の弊害が明らかになっています。これを公共選択論という経済学では、レントシーキング(たかり行為)といいます。・・・こうした技術革新の中で、そもそも、原発に依存したこれまでの巨大電力会社体制も、近い将来は、時代遅れになり、恐竜のように消滅するでしょう。このまま『古い電力である』原発を再稼働しても、決して日本経済は活性化しません。むしろ脱原発に舵を切れば経済の拡大要因になります。・・・脱原発は新産業の幕開けをもたらし、景気や雇用の拡大になります。経団連が雇用減少といいますが、むしろ脱原発は雇用拡大につながるのです。その意味でも、ただちに原発をゼロにすべきです」。全く、そのとおりだ。