幕末・維新・明治期の女性たちは旅に何を求めたのか――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その133)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(221)】
●『女の旅――幕末維新から明治期の11人』(山本志乃著、中公新書)
『女の旅――幕末維新から明治期の11人』(山本志乃著、中公新書)では、幕末・維新・明治期に旅した11人の女性――田上菊舎、松尾多勢子、楢崎龍、岸田俊子、津田梅子、花子、野中千代子、クーデンホーフ光子、河原操子、山野千枝子、イサベラ・バード――が、要領よく紹介されている。
「新しい時代の息吹を確かに感じながらも、決して便利でもなければ平和でもなかった明治という時代に、山河を越え、海を渡った女たち。彼女たちの旅は、大衆化を果たしたがゆえに画一的となった現代の旅では、もはや再現されることのない冒険と輝きに満ちている。人生におきかえることができるほどの光彩を放つ旅は、便利さや手軽さとは無縁のところにある。そしてそこに、旅の普遍的な魅力が潜んでいる」という著者の言葉が、この本の魅力を的確に表現している。
11人の旅の背景は、文学、思想、流浪、政治、留学、巡業、探検、結婚、戦争、移民とそれぞれ異なるが、いずれも興味深い。
「田上菊舎――22歳で未亡人となった美濃派俳人の全国漂泊」は、40年余に亘る長期間、俳諧師として、全国を旅した女性の物語である。
「楢崎龍――龍馬妻の新婚旅行から、夫没後の上京苦譚」では、坂本龍馬と妻・龍の「日本初の新婚旅行」と、龍馬暗殺後、64歳で没するまでの龍の生涯が語られている。
「津田梅子――6歳での米国留学、日本語忘却後の苦難の日々」は、帰国後、念願であった女性の高等教育を目指す私塾「女子英学塾」(現・津田塾大学)の開設に漕ぎ着けるまでが綴られている。
「イザベラ・バード――明治初期、日本を駆け抜けた英国旅行作家」は、1877年に、東北地方から北海道にかけて3カ月の旅をし、帰国後に『日本奥地紀行』を著したイザベラ・バードの記録である。この書は、旅行中に最愛の妹に書き送った書簡がもとになっているとのことだが、無性に読みたくなってしまった。
「彼女(バード)にとって、東北の山間部を行く旅は、北海道という憧れの『未踏の地』へ向かうための過程にすぎなかった。が、おそらくこの旅を終えた後、その過程にこそ『本当の日本』があったことに彼女自身気がついたはずである」という指摘に、著者自身の旅への思いが込められていると思う。