若き日の私の胸に野望の火を付けた本――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その283)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(370)】
●『幹部になる条件――抜きんでる発想・能力・識見をどう身につけるか』(三神良三著、日本実業出版社)
私の胸に「幹部になる」という野望の火を付けたのは、『幹部になる条件――抜きんでる発想・能力・識見をどう身につけるか』(三神良三著、日本実業出版社)という、チョコレート色の表紙の本であった。それは、私が三共(現・第一三共)に入社して10年目、一介の大学・基幹病院担当MRの時のことであった。
それ以来、この本は、引っ越しを重ねても、常に私の書棚の特別席に収まり、私を励まし続けてくれたのである。著者の三神良三は、私の心の師となったのである。
第1章は、「感情のバランスを保持せよ」、第2章は、「直情径行的『簡単人間』になるな」、第3章は、「才覚ある『複雑人間』となれ」、第4章は、「幹部になるための十戒」、第5章は、「幹部になるための十備」、第6章は、「奥深なバランスある発想を」となっており、書かれていることと自分の現状のあまりの落差に愕然としたことを、鮮明に思い出す。
例えば、第1章には、「怒りは敵と思え」、「嫉妬はオモテに出すな」、「好きな人・嫌いな人をつくるな」、「陰で論評しないことだ」、「目先の損得に支配されるな」、「部分思考で先走るな」、「相手が完全でないといって怒るな、しょげるな」、「失意の時こそ」、「有頂天の時こそ」といった具体的なアドヴァイスが並んでいる。
第2章は、「単純な合理主義者となるな」、「現象のウラを考える癖をつけよ」、「なにごとにも一辺倒となるな」、「組織のもつ魔力に酔うな」、「自己本位思考に埋没するな」といった具合である。
第3章では、「負けて勝つ手を覚えよ」、「逆説的な判断も身につけよ」、「回り道には予見能力が必要だ」、「目先の欲に心を失うな」といった智恵が示されている。
第4章では、「自己の価値観に固執するな」、「公私の別をはっきりせよ」、「単純な正義漢となるな」、「同化されるな! 異物となれ」、「保身に汲々となるな」と、戒めている。
第5章では、「深く生きた教養が必要だ」、「後輩の創意啓発者的才能を持つ」、「三分の侠気が必要だ」、「プランニング能力を身につける」、「決断力と責任感」、「円熟味を身につける」、「職域での不安解消者としての存在」、「人に利用されるものを持つ」、「不合理のなかに合理性をみつける眼」を備えよと、励ましている。
裏表紙の見返し部分に、こういう戒めの言葉が万年筆で書き写されている。「饒舌家はイメージを高めることはできない。むしろ寡黙家の方が適格性ありといいたいが、全くの無口でもだめである。必要なことは言い、不必要なことは言わない癖を早くからつけることだ。必要なことはショートに要領よくいう。必要とは自己のイメージを高めるようなことをいう。不必要なことは口に出さない。とくにプライベートのことは口にしないがよい。プライベートのことをいう者は、とかくイメージをダウンさせるものだ。この必要なことをなるべくショートに要領よい言葉で話し、自己のイメージをダウンさせるようなことは言わないということは修行を要することで、なかには一生うまく身につけることのできない人もいる」。自分のお喋り癖を直さねばと、わざわざ書き抜いたというのに、この悪癖はこの齢になっても直せていない。