MRが逆境を生き延びる3つの秘策・・・【MRのための読書論(7)】
逆境を乗り越えた先人たち
どんなに優秀なMRであろうと、常に順風満帆で活躍できるほど世の中は甘くない。逆境に置かれた時の心理・行動から、人間を2つのタイプに分けることができる。1つは、自分の運命を嘆きながら暗い日々を過ごし、遂には自らの人生を否定してしまうタイプの人間である。もう1つは、どんなに厳しい状況に置かれようと、勇気と誇りと愛する人への熱い思いを持ち続け、やがて逆境を脱出するタイプの人間である。逆境を耐え抜いた人間は、一回りスケールの大きくなった人間として第一線に戻ってくるのである。
逆境に置かれると、かなりタフな者でも心理的に落ち込み、追い詰められてしまう。では、そういう時、どうすればいいのか。第1の方法は、逆境を乗り越えた先人たちの経験に学ぶことである。さまざまな逆境を乗り越えた先人の逸話は数多く知られているが、究極の体験は『夜と霧』(V.E.フランクル著、霜山徳爾訳、みすず書房)に尽きると思う。
著者のフランクルは少壮の精神科医として、美しい妻と2人の子供に恵まれ、ウィーンで平和に暮らしていたのであるが、突然、ユダヤ人という、ただそれだけの理由で、ナチスによって一家もろともアウシュヴィッツ強制収容所へ送られてしまう。そして、ここで彼の両親、妻、子供たちは、あるいはガス室で殺され、あるいは餓死してしまうのである。彼だけがこの書に描かれている凄惨な状況の中を生き延び、奇跡的に生還することができたのである。
彼はどのようにして、この常に死と隣り合わせの逆境を生き延びたのか。彼は、精神的、肉体的にぎりぎりの状況下にあっても、酷寒の屋外での辛い行進や労働の最中に、心に思い描いた最愛の妻と会話を交わし続けることで、彼女から慰められ、励まされ、勇気づけられたのである(妻がこの時には既に殺されていたことを彼が知るのは、生還後のことである)。
逆境に陥った人間の哀しさが描かれ、哀しいが故にいとおしい人間たちが登場する短篇コミック集『人間交差点』(矢島正雄原作、弘兼憲史作画、小学館文庫、全19巻)は、あなたの逆境を慰めてくれることだろう。
自分で自分を励ます仕掛けづくり
逆境を生き延びる第2の方法は、自分で自分を励ます仕掛けをつくることである。一例を挙げてみる。小気味いい、切れ味のいい文章を書く俵萠子という評論家の、私は長年のファンであるが、彼女が何十年も前に雑誌(多分、女性誌?)に寄稿した文章「職場のやりきれない人間関係――先輩や同僚、後輩に、どうしてもがまんのならない人がいるとき、私はいつもこう考えることにしていた」の色褪せたコピーは私の宝物である。この、たった4ページのコピーに何度、慰められ、励まされてきたことか。
「サラリーマンにとって、何がしあわせといって、いい上役に恵まれ、よし、この人のためになら働いてやろうと、ほれて働けるときほどしあわせなことはない」、「私の13年間のOL生活を思い出してみても、会社へいくのがいやになったり、やめたいと思い暮らした時期は、たいてい”きらいな人物”が身辺にいたときであった」、「イヤな上役とは、台風のごときものである。その間はじっと耐えるほかない。大事なことは、このイヤな状態が永遠に続くとは思わないことだ」、「不愉快なやつは、必要なとき以外は、いないと思えばいいのである」――俵の体験的なアドヴァイスを伝えたいと思うあまり、ついつい引用が長くなってしまった。
このコピーの全文を読みたいという人は、私宛てのメール(rsd02078@nifty.com)で請求を。
うっとりできる自分の時間
逆境を生き延びる第3の方法は、「うっとりできる自分の時間」を持つことである。辛い環境から一時緊急避難することで、精神のバランスを保つのだ。「うっとりできる自分の時間」は人それぞれであろうが、私の場合は、好きな絵と写真が掛かった書斎に籠もり、好きな香りの中で、好きな音楽(ヴィヴァルディ、バッハ、モーツァルト、演歌、歌謡浪曲など)を聴きながら、好きな本を読むことにしている。
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