巨額の財政赤字を減らさない日本に明日はない・・・【MRのための読書論(60)】
財政赤字で倒産しかねない日本
警世の書が書店に溢れているが、タイトルが虚仮(こけ)威しだったり、主張が極端に一方的だったりするものが多い。しかしながら、『日本経済このままでは預金封鎖になってしまう――動乱の時代を生き抜く経済の読み方』(小宮一慶著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、日々の業務で忙しいMRも目を通してほしい一冊である。
日本は現在、世界一巨大な財政赤字を抱えている。この財政赤字を減らさなければ、日本に未来はない、というのが著者の骨子となる主張だ。国の予算を企業会計のように損益計算書の形に組み替えてみると、分かり易い。国の税収は企業の売上高に相当するが、これが2010年度は約37兆円。国の一般歳出と地方交付税などが企業の売上原価と販売費・一般管理費に当たるが、これが約71兆円。この差額が企業でいう営業利益となるが、これが34兆円の赤字だから、売上高とほぼ同額の赤字を出している日本は、いずれ倒産が避けられない大変な赤字企業ということになる。この赤字を国の借金である国債の発行などで補っているのである。企業でいう経常利益の段階では、国債の金利支払いの約10兆円が加わるから約44兆円の赤字となる。金利支払いとは別に、国債という名の借金の元本を返していかねばならないが、これが税収20年分という巨額に上っている。国の財政が破綻すれば、金融が大パニックを起こし、預金封鎖などで私たちの生活も大変な状態に陥るのである。
国の財政赤字を支える巨額の赤字国債を大量に購入しているのが日本の銀行(都市銀行、ゆうちょ銀行)だ。ということは、私たちがこれまで苦労して貯めた預貯金が、自ら国債を買っているという自覚がないまま、日本の財政赤字を支える原資となっているのである。国債がディフォールト(債務不履行)になったら大変なことになるが、たとえディフォールトにならなくとも、インフレなどが起こって国債価格が暴落するだけで、銀行は大打撃を受ける。つまり、国債がおかしくなったら、私たちの資産も危ない、ということである。
デフレ不況の解決策として検討されているインフレ・ターゲットが、いかに危険な選択肢であるか、著者が警告を発している。この政策はデフレの解決策にはならない、たとえ解決策になったとしても、現在のような需要不足の状況下では銀行に痛撃を与え、場合によっては、一気に日本の財政破綻を招きかねない危険な道だというのだ。仮に、インフレによって金利が2%高くなったら、現在1000兆円に積み上がっている借金(国債)の金利支払いが年30兆円と、税収の8割近くを占めることになってしまうからである。その上、金利支払いが増えるだけにとどまらず、国債の価格が一気に下がり、大量の国債を保有している銀行が痛手を受ける。ひいては預貯金を通じて国債を購入している私たちも大被害を被ることになるのだ。
著者が懸念する、巨大な財政赤字をさらに進行させ、日本を危機に追い込みかねない2つの危険予測――①少子高齢化、それに伴う貯蓄率の低下が財政危機を加速する、②中国経済の減速で日本経済も減速する――は、説得力がある。
理科系人材を冷遇する日本
『理科系冷遇社会――沈没する日本の科学技術』(林幸秀著、中公新書ラクレ)は、強烈な警世の書である。「難しい数学や理科の勉強に精を出して大学受験を無事に通過し、大学で高い授業料を払って忙しい理科系学部で我慢をしながら勉強し」たのに、日本の理科系卒業生たちは報われていない、冷遇されている、というのが著者の主張だ。さらに、博士号を取得した後、終身雇用の研究職に就けず、任期付きの形で研究を行っているポスドク(ポストドクター)たちが増え続けている「ポスドク問題」にも筆が及んでいる。定職に就けない理科系博士号取得者は「高級非正規労働者」だ、と痛烈である。
資源が乏しい日本は、科学技術が世界に向けて存在感を示す重要な分野であると認識せよ、米国、欧州諸国、中国、韓国などに後れを取らぬよう、見劣りのする政府研究開発費を増額せよ、海外の国々との差が拡大しないよう、理科系人材冷遇社会を打破せよ、とさまざまなデータを用いて提唱している。
『医薬ランキング』(エルゼビア・ジャパン)が引用されるなど、医療・製薬・医療機器の分野についても紙幅が割かれ、鋭い提言がなされている。
戻る | 「MRのための読書論」一覧 | トップページ