榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

よし(吉)野山みねのしら雪ふみ分(け)ていりにし人のあとぞこひ(い)しき・・・【ことばのオアシス(44)】

【薬事日報 2010年9月1日号】 ことばのオアシス(44)

よし(吉)野山みねのしら雪ふみ分(け)ていりにし人のあとぞこひ(い)しき
しづ(ず)やしづ(ず)しづ(ず)のを(お)だまきくり返し昔を今になすよしもがな

――静御前

吉野は女人禁制の山ゆえ、源義経一行と泣く泣く別れた静は捕らえられ、鎌倉に送られる。義経の行方について厳しい尋問を受けるが、「知りません」の一点張り。そして、静は当代随一の白拍子(男装の舞姫)としてその名が高かったため、源頼朝・政子夫妻の前で舞うことを強要される。この時、鶴岡八幡宮の廻廊(舞殿はこの7年後の造営)で、静が舞いながら歌ったのが有名なこの歌である。どうぞ今一度、義経様の栄える世になりますように。2首の歌には義経を思う静の心情がほとばしっている。同時に、彼女は自分の最愛の人を苦しめている、時の最高権力者に抵抗の気概を示したのである。