・・・・・・・・・ ・・・【ことばのオアシス(91)】
【薬事日報 2012年4月18日号】
ことばのオアシス(91)
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――離愁
私の一番好きな映画は、1975年に公開されたフランス・イタリア合作の『離愁』(原題『列車』)である(DVDあり)。
この映画のラスト・シーンの2分間――思いがけない場所で、3年後に再開した男と女は終始、無言である。男の右手が女の左頬に優しく添えられる。それから、万感の思いを込めて見つめ合う二人。やがて、男の胸に顔を埋める女。この間、ナチの取調官の台詞がモノローグのように流れるだけだ。第二次世界大戦中、疎開地へ向かう列車に乗り合わせた中年男と謎めいた黒服の美女の間に愛が芽生える。ドイツ兵を恐れるユダヤ女性を演じたロミー・シュナイダーの凛とした美しさが鮮烈。
なお、ジュルジュ・シムノンの原作は映画とは結末が異なるので、読まないほうがよい。
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