青春の甘酸っぱい気分が甦ってくる俵万智の歌集・・・【山椒読書論(355)】
気分転換をしたくなったとき、書棚から引っ張り出した『サラダ記念日』(俵万智著、河出文庫)を開くと、青春の甘酸っぱい気分が甦ってくる。
・思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
・気がつけば君の好める花模様ばかり手にしている試着室
・君を待つ土曜日なりき待つという時間を食べて女は生きる
・「また電話しろよ」「待ってろ」いつもいつも命令形で愛を言う君
・落ちてきた雨を見上げてそのままの形でふいに、唇が欲し
・オクサンと吾を呼ぶ屋台のおばちゃんを前にしばらくオクサンとなる
・「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
・この時間君の不在を告げるベルどこで飲んでる誰と酔ってる
・同じもの見つめていしに吾と君の何かが終ってゆく昼下がり
・愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う
・たっぷりと君に抱かれているようなグリンのセーター着て冬になる
・泣き顔を鏡に映し確かめる いつもきれいでいろと言われて
・潮風に君のにおいがふいに舞う 抱き寄せられて貝殻になる
・「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの
・君を待つ朝なり四時と五時半と六時に目覚まし時計確かむ
・この部屋で君と暮していた女(ひと)の髪の長さを知りたい夕べ
・あなたにはあなたの土曜があるものね 見て見ぬふりの我の土曜日
・万智(まち)ちゃんがほしいと言われ心だけついていきたい花いちもんめ
・何してる? ねぇ今何を思ってる? 問いだけがある恋は亡骸
・思いきりボリュームあげて聴くサザンどれもこれもが泣いてるような
・君の香の残るジャケットそっと着てジェームス・ディーンのポーズしてみる
・いい男(ヤツ)と結婚しろよと言っといて我を娶らぬヤツの口づけ
・泣いている我に驚く我もいて恋は静かに終ろうとする
・思い出す君の手君の背君の息脱いだまんまの白い靴下
・明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終電車
・「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
・いるはずのない君の香にふりむいておりぬふるさと夏の縁日
・金曜の六時に君と会うために始まっている月曜の朝
俵万智に影響されて、私も一首――万智ちゃんの切なさ我に乗り移り はっきりしろよと男責めおり。