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『徒然草』は、世の中を生き抜くための実用書・・・【山椒読書論(356)】

【amazon 『転ばぬ先の転んだ後の「徒然草」の知恵』 カスタマーレビュー 2013年12月24日】 山椒読書論(356)

転ばぬ先の転んだ後の「徒然草」の知恵』(嵐山光三郎著、集英社)は、吉田兼好の随筆『徒然草』を、世の中を生き抜くための実用書として見直そう、と提案している。

例えば、第188段の「一事を必ず成さんと思はば、他の事の破るるをも傷むべからず」という一節は、「何かをしようと思えば、必ず人からいろいろなことを言われる。中傷を受け、悪口を叩かれ、命まで狙われる。中傷、嫉妬を覚悟の上でなければ、一事を成すことはできない」と、兼好が自分の体験を踏まえて断言しているというのだ。

また、第167段の一節、「我が智を取り出でて人に争ふは、角のある物の、角を傾け、牙ある物の、牙を咬み出だす類なり」は、才能を振りかざして人と争うなという戒めだというのである。

第85段の説明では、「私は、若い新入社員に対し、『尊敬できる上司をまず捜し出せ。そしてその人のことを徹底的に真似しろ』と説いている」と書いている。

こう言われると、高校時代にてこずった『徒然草』が身近に感じられるから不思議だ。組織における人物論としても、その解釈は高校の古典の授業と違って新鮮である。

著者は、『徒然草』を単なる世捨て人の随筆ではなく、若き親王のために書かれた君主論と位置づけているが、著者の吉田兼好への思い入れが伝わってくる一冊である。