榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

東日本大震災からの復興は、二宮尊徳の「報徳仕法」に学べ・・・【山椒読書論(436)】

【amazon 『二宮尊徳の経営学』 カスタマーレビュー 2014年4月18日】 山椒読書論(436)

東日本大震災からの復興が遅々として進まない現在、二宮尊徳の「報徳仕法」(=分度を立てる<入るを量って、出ずるを制する>+勤労する+推譲する<自分の愛情を相手に差し出す>)から学ぶべきことが多い。「再興などの改革を行うのは『三つの壁への挑戦』だといわれる。三つの壁というのは、一つ目はモノの壁(物理的な壁)、二つ目はしくみの壁(制度の壁)、そして三つ目がこころの壁(意識の壁)である」。尊徳が唱えた「心田開発」(心の復興)という言葉が印象的である。

二宮尊徳の経営学――財政再建、組織改革を断行できるリーダーの条件』(童門冬二著、PHP文庫)には、二宮金次郎、後の尊徳が没落した我が二宮家、二宮本家、小田原藩の家老・服部家の財政再建を経て、一農民でありながら小田原藩主・大久保家の分家である下野(栃木県)桜町の領主・宇津家の財政改革に取り組んだ苦闘の軌跡が克明に記されている。

私は以前から尊徳を尊敬している。しかし、自分の家や本家の財政立て直しはともかく、頑迷かつ強力な抵抗勢力の妨害に遭いながら、尊徳が服部家や宇津家の財政再建に奔走したのか長らく不可解であった。本書によって、この疑問が氷解したのみならず、尊徳に対する敬愛の念が一層深まったのである。

報徳仕法というのは、「●何よりもデータを重んじる。●数字を尊重する、信用する。●数字による過去の実績を重視する。今後の復興計画の基礎とする。●復興計画も決して拙速なものにはしない。●期限を最小限10年とする。●計画者・推進者・指導者としての金次郎はその事業に身を投ずる。全財産も投ずる。この間、かれは決してわき目を振らない。他の事業には一切目を向けず考えもしない。●この計画にも『積小為大』の精神が籠っている」。

尊徳の成功は、「金次郎が願う、『常に相手の立場に立って物を考えようとする優しさと思いやりの精神、すなわち恕の心』すなわち、『お互いに助け合おう』という協同の精神に基づくものだといっていい」。

「金次郎の住民に対する教化の講義は、『難しいことを易しく語る』という手法をとった。かれは神・儒・仏の三つの信仰や学問を下地にはしていたが、金次郎の特色は、『神儒仏の創始者たちを、決して神格化しない』という態度をもって臨んだことである」。

「金次郎の主張するところは、『悟道などというのは人間を運命論者にしてしまって、何でも悪いことにぶつかると、仕方がない運命(定め)だ、と諦めてしまう。ところが人道はそうではない。最後の最後まで力を絞り尽くして努力をする、ということだ』」。そして、尊徳は、「『この世の苦労も、あの世では救われる』という『あの世主義』には真っ向から反対する。『人間がそんな考えを持ったらおしまいだ。働く意欲がなくなる。あの世よりもまずこの世の方が大事だ』と考えるからである」。尊徳のこの考え方に大賛成だ。

宇津家の財政再建を成し遂げた後、「金次郎を訪れて教えを請うた人々は、すべてその属する地域の復興を願うことが動機であった。有名なのが、相馬(福島県)藩士の富田高慶・駿河の安居院庄七・常陸国真壁郡青木村の住民たち・谷田部茂木の領主細川長門守興徳・烏山藩天性寺住職円応・そして伊豆韮山の代官江川太郎左衛門などである」。