榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

国内外の風刺画で辿る近代日本史・・・【山椒読書論(669)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年2月16日号】 山椒読書論(669)

風刺画が描いたJAPAN――世界が見た近代日本』(若林悠編著、国書刊行会)は、国内外の代表的な風刺画家の作品や時代特有の作品を集めて、近代日本史を辿ろうという意欲的な風刺画集である。黒船来航から太平洋戦争勃発までの作品が集められている。「かつての日本人は自国について何を思い、また、他国の人々は日本をどのように見つめていたのか。本音、願望、ヒイキ、偏見に、思い違いすら盛り込まれた、時代のあけすけな肌感覚を、風刺画を通して味わっていただけたら幸いである」。

とりわけ興味深いのは、これらの作品である。

●くるわのいきぢ(廓の意気地)――三代目・歌川広重(江戸)1868年
「美男美女の会津(藩)と(徳川)慶喜。憎々し気な上方(=長州藩、薩摩藩、土佐藩、彦根藩、朝廷)の客。威勢のいい花魁(=慶喜)は、慶喜に反撃してほしい江戸庶民の願望だろう」。

●中国で 王と皇帝のケーキ――アンリ・マイヤー(仏)1898年
「『中国』というパイをどう切り分けるか、互いに牽制し合っている外国の侵略者たち。列強は時計回りにイギリス(ビクトリア女王)、ドイツ(ヴィルヘルム二世)、ロシア(ニコライ二世)、フランス(マリアンヌ)、日本(サムライ)。清の役人は大慌てしている」。

●日本はさらに攻撃的な視線を送る――レーンデルト・ヨルダーン(蘭)1932年
「『中国』という名の象を睨みながら呑み込もうとする『日本』という名の蛇。『満州』『上海』と書かれた象の鼻はすでに蛇の体内にあるが、これ以上、飲み込むと蛇自身の体が破裂しそうである」。

●無題――ローソン・ウッド(米)1942年
「主人ヒトラーを乗せて全力で人力車を引く日本猿。この絵は太平洋戦争中の作品だが、日独防共協定締結以降、日本はドイツの子分として描かれるのが定番になっている」。

●名誉ある説得――アーネスト・シェパード(英)1938年
「放火した家の中で、日本人が中国人を縛り上げて『アジアの大義』を説いている。『名誉』とは戦前の日本人が好んで使った言葉のひとつである」。

●警告!――アーサー・シイク(米)1943年
「戦時中のプロパガンダ・ポスター。アメリカを狙う日本人とヒトラー」。

●無題――クリフォード・ベリーマン(米)1943年(東条の『我々は常にこの日を忘れないでしょうね、陛下』、天皇の『私もそう思い始めているよ』という台詞が書き込まれている)
「真珠湾攻撃を後悔して、この記念日を忘れられなくなった昭和天皇と東条首相」。

●夕日の国――フリッツ・ギルシ(スイス)1945年
「自然物以外に何もない原始に戻った日本の風土。山のすそ野に太陽が沈んでゆく。やせ細って死んだ子供の前には、籠に入れられ自由を奪われた平和の象徴・ハト。子供の死体と壊れた寺の残骸の横で、夕日に向かってたたずむ僧侶」。