榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ずっしりと重い写真集から、被写体の本たちが静かに語りかけてきます・・・【山椒読書論(780)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年4月29日号】 山椒読書論(780)

先輩の本棚――CATALOGUE of GIFT BOOKS 2023』(文化通信社)の中で、幅允孝が『ビブリオテカ――本の景色』(潮田登久子著、ウシマオダ)を薦めている。「本は著者以外の誰かの手に取られ読まれて、初めて本たり得ます。この写真集は、潮田登久子さんが20年以上撮り続けてきた図書館の書物や個人蔵書をあくまでもオブジェとして見極めようとした写真です。ところが、そこには確かに読み継いできた人の痕跡と時間が確かに見えるから震えてしまうのです」。

著者の潮田登久子は、こう述べている。「様々な時代に多様な運命を辿ってきた『本』に触る楽しみを見つけた私は、例えば、15世紀ヨーロッパの修道士たちが聖務日課に用いた一抱えもある大きな祈祷書が目の前に現れた時、その存在感にただ驚き圧倒されるばかりでした。羊皮紙に手書きのグレゴリオ聖歌と詩篇が刺青のごとく刻まれていて、美しくも残酷な姿です。室町時代なのか、あるいは江戸時代のものなのか、黄ばんだ和紙の屏風仕立ての経文の一面に星屑のように穿たれた穴は、昆虫のフルホンシバンムシが来る日も来る日も経文を唱えるように食んでいった証ではないかと思ったりするのです。生まれて初めて辞書引きを習った小学2年生の使っている国語の教科書には、彼らが身の回りにある『言葉』や『物』たちを手当たり次第に辞書引きし、付箋を貼りつめたものでした。白菜やブロッコリーのようでもあり、彼らの悩みそのようでもあります。本をオブジェとして写真撮影を試みているうちに、情報の担い手という『本』自体が持っている役割を越えて、新たに『本』そのものの存在が魅力となって浮き上がってきました」。

1.5kgもあり、ずっしりと重い写真集から、被写体の本たちが静かに語りかけてくる。