榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

イソップ物語を夜更けに読み返してみた・・・【山椒読書論(681)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月12日号】 山椒読書論(681)

はじまりのイソップ物語――夜ふけに読みたい』(田野崎アンドレーア嵐・和爾桃子編訳、平凡社)によって、イソップが作った話は、その後の各時代、各地方の要素を取り込み、今日のイソップ物語に集大成されたことを知った。

本書には139話が収められているが、改めてイソップ物語を読み返すのも、なかなかいいものだ。

●「北風と太陽」
ご存じの、北風と太陽が、通りすがりの人の服を脱がすのはどっちかと、強さ比べで張り合う話である。「力ずくより、穏やかに説得したほうがうまくいきますよ」。

●「乳しぼりの娘とおけ」
「農家の娘が牛の乳しぼりを終えたあとで、牛乳を入れたおけを頭にのせて帰ってくるときのことです。娘は歩きながら、想像にふけります。『この牛乳でクリームを作ったら、それをバターにして市場で売るのよ。そのお金で卵をたくさん買えば、ヒヨコが生まれて成長して、それは大きなニワトリ小屋ができるわ。そしたらニワトリを売って、そのお金で新しいドレスを買おうかしら。お祭りの日に着ていけば、男の子たちの視線も釘づけよ、きっと言い寄ってくるわ。だけどあたしはそっぽを向いて、何にも言ってやらないの』。おけのことをすっかり忘れた娘は、男の子にそっぽを向くまねをして、ツンと顔をそむけます。するとおけは頭から落ちて牛乳もこぼれてしまい、娘の夢も消えてしまいました。ですからね、生まれる前にヒヨコを数えてはなりません」。

●「おおかみが来たぞ」
よく知られた、オオカミが来たと、いつも嘘をつく少年の話である。「ふだんから嘘をついていると、いざ本当のことを言っても聞いてもらえないぞと教えているお話です」。

●「二つの袋」
「人間は誰しも二つの袋を体にぶら下げていて、ひとつは体の前に、もうひとつは体の後ろにあります。どちらの袋も『欠点』でいっぱいですが、前の袋には他人の欠点が、後ろの袋には自分の欠点が入っています。それゆえ人は、自分の悪いところには気づかず、他人の欠点ばかりに目がいくのです」。なるほど!

●「兄と妹」
「ある男に息子と娘が一人ずついました。息子は美少年ですが、娘は地味です。あるとき母親の部屋で兄妹が遊んでいた時に、たまたまどっちも生まれて初めて鏡をのぞいて、自分たちの容姿を見てしまったのです。息子はわれながら美少年で、ぼくはきれいだろと妹にいばり始めました。娘はぱっとしない自分の顔を突きつけられた上に、おまえなんか地味だよと兄に侮辱されて今にも泣きそうです。それで父親のところへ走っていってお兄ちゃんにいじめられたと訴え、兄が母の持ち物をいじったのを告げ口しました。父親は笑いだして子どもたち両方にキスすると、『かわいい子どもたちや、これからは鏡をうまく使いなさい。ぼうや、おまえはね、努力して見た目に負けない中身のある人におなり。そして嬢やはね、腹をくくって地味な顔を埋め合わせるだけの芯と優しさを身につけるんだよ』」。こういう父親がいる子供たちは幸せだね。

●「天文学者」
天体観察に夢中になって、うっかり井戸に落ちてしまった天文学者の話だ。「机上の空論をぶち上げるくせに、日常さえまともにこなせない人に、このお話はぴったりですね」。私のことを言われているようである。

●「プロメーテウスと人間」
「プロメーテウスは、ゼウスの命令を受けて、人間と動物とを作りました。ところが、物言わぬ動物がずいぶん多いので、ゼウスは彼に、いくつかの動物を人間に作りかえるよう命じます。プロメーテウスが命令通りにした結果、動物から作り直された人々は、姿こそ人間ながら、心は獣のままになってしまいました。このお話は、粗暴で怒りっぽい人たちへの戒めです」。私は、急いで作り直された人間かも知れないなあ。

アーサー・ラッカムのユニークな挿絵も楽しめる一冊だ。