榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ヘイトスピーチ、ロシアの不正介入、新聞の衰退――を何とかしたい人向けの一冊・・・【続・独りよがりの読書論(42)】

【amazon 『情報戦争を生き抜く』 カスタマーレビュー 2018年11月15日】 続・独りよがりの読書論(42)

私が頭を痛めている問題

現在、私が頭を痛めている問題が、3つある。第1は、低劣なヘイトスピーチが跋扈し、それを囃す人間がいるということ。これを根絶するには、どうしたらよいのかという問題である。第2は、ロシアの不正な介入によって、大統領の資質に欠けるトランプ大統領が誕生したこと。ロシアの介入を白日の下に晒し、ロシアにこういう行為が、結果的にロシアの国益を損なうことを思い知らせる方法はないのかという問題である。第3は、紙の新聞の衰退が著しいこと。紙の新聞を読むことで我々が得るものがいかに大きいかを周知させ、新聞を何とか盛り返す手立てがないものかという問題である。

気骨あるジャーナリスト

情報戦争を生き抜く――武器としてのメディアリテラシー』(津田大介著、朝日新書)は、私が頭を痛めている3つの問題に的確なヒントを与えてくれた。それに止まらず、メディアを取り巻くさまざまな問題に対するヒントも大変参考になる。炎上にも怯むことなく、自身の信念に基づき、勇気ある発言を続けている気骨あるジャーナリスト・津田大介の面目躍如の一冊である。

ヘイトスピーチ

「日本でヘイトスピーチという言葉が認知されるきっかけになったのは2013年1月、2月に東京都新宿区新大久保のコリアンタウンで行われたデモで、在日韓国・朝鮮人に対して聞くに堪えない排外主義的な発言が含まれており、3月に入ってそのデモをマスメディアが大々的に取り上げたことだとしている」。

「現実世界のデモにおけるヘイトスピーチも深刻だが、インターネット上でのヘイトスピーチへの対応も喫緊の課題である。・・・欧米に比べ、依然としてツイッターやまとめサイトなどでのヘイトスピーチが後を絶たず、その多くが放置されたままだ。世論調査を見る限り、ヘイトスピーチが徐々に日本社会へ浸透していることは疑いようがない」。

「日本では2016年6月に『本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律』――通称『ヘイトスピーチ対策法』が施行されたが、禁止・罰則規定のない理念法であるため、実効性に疑問の声が上がっている。今後この法律を実効性のあるものにする過程で、表現の自由に配慮しながら少しずつ規制を進める欧州の取り組みは参考になるはずだ」。

ロシアの不正介入

「2016年6月のブレグジット、11月の米国大統領選挙に続いて2017年5月に行われたフランス大統領選挙や、同年9月に行われたドイツ連邦議会選挙でも、排外主義的な政策を掲げる集団の躍進が注目を集めた。彼らを勢い付け、世論形成に少なくない影響を与えたのが、ソーシャルメディア上に蔓延したフェイクニュースやヘイトスピーチだと言われている。いずれの選挙においてもロシアによる介入が疑われ、ソーシャルメディアを運営する事業者や各国政府は、フェイクニュースやヘイトスピーチへの対策に追われている。ロシアという国は、フェイクニュースを語る際に避けては通れない存在だ」。

「(「ロシアゲート」)疑惑の主な焦点は、ロシアとトランプ陣営とのつながり、そして米国有権者に影響を及ぼすことを意図したソーシャルメディアを利用した工作活動の2つである」。

「結論から言えば、公聴会に呼ばれたすべてのソーシャルメディア(=フェイスブック、グーグル、ツイッター)は、ロシアからの攻撃を認めた」。

「(英オックスフォード大学の)研究チームは2015年か米国、ドイツ、カナダ、ロシア、ウクライナ、中国、台湾、ブラジル、ポーランドという9つの国・地域で選挙や政治的危機、国家安全保障といった話題がついて、ソーシャルメディア上でどのような議論が行われているかについて、数千万件の投稿を分析。その結果、ロシアを中心にフェイクニュースや政治的プロパガンダが自動プログラムによって作られ、世論形成に影響を与えていることが明らかになった。研究チームのフィリップ・ハワードによると、ロシアのサンクトペテルブルクには世論操作を専門に行う施設があり、そこでは数百万ドルの予算が投じられ、数百人の工作員が日夜、様々な国を対象とした世論操作を行っているという」。

紙の新聞の衰退

「新聞社や出版社が現在苦境に陥っている理由の一つに、デジタル世代の若者はニュースをわざわざパブリッシャーのページに行って読まないという傾向が挙げられる。フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアで、誰かが広めた記事を個別に読む。もしくは、スマートニュースやグノシー、ヤフーニュース、グーグルニュースなど、様々なニュースをまとめているサービス経由で読むのが当たり前になっている」。

「プラットフォーム事業者が『規模の経済』で優位に立っている中、新聞社や出版社が頑張って自社媒体による情報発信や課金にこだわっても、肝心の読者がついてきてくれる可能性は低い。世界最大の情報プラットフォームであるフェイスブック上にメデゥア向けの有料購読機能が追加されることは、大きな意味があるだろう」。

「信頼性に乏しい情報であっても、扇情的な情報であれば大量に拡散してしまう今だからこそ、『紙』メディアはプライドを持って情報の検証に力を注いでほしい。それがネットメディアと差別化するための唯一の策なのだから」。

情報戦争

「現在起きている情報戦争の本質とは何か。それは、ソーシャルメディアの影響力がマスメディアを超えつつあることで、事実が軽視されるようになり、その結果として、論理や理屈よりも感情が優越し、分断の感覚が増大しているということである」。

この状況を乗り越えるための方策として、著者は、①「技術」で解決する、②「経済制裁」で解決する、③発信者情報開示請求の改善で解決する、④「報道」で解決する――の4つを挙げている。具体的には、①は、「AI技術の活用や外部の報道機関と連携し、ニュースのファクトチェックをソーシャルメディアの機能として組み込むことだ」。②は、「企業の『ブランドセーフティ』という概念を広めていくことが何より重要だ。・・・規約違反や倫理的に問題のある情報発信を続ける発信者をブラックリストに掲載し、新規のアカウントを開設できないようにするなどの手段を講じて、彼らの収入を絶つのだ。彼らの目的はイデオロギーではなく、あくまでカネである。情報を歪めることでカネが稼げなくなったら、多くのプレーヤーは退場する」。③は、「フェイクニュースやヘイトスピーチを垂れ流す発信者に、情報発信に伴う責任を取ってもらうという話である」。④は、「具体的な対策というより、マスメディアに対するエールだ。フェイクニュースが跋扈する時代だからこそ、報道の持つ根本的な力が試されている」。報道がファクトチェックを行えというのだ。

メディアのあり方に関心を持つ人はもちろん、そうでない人たちにも一読を勧めたい。