ヒマラヤの雪男の正体はヒマラヤヒグマだった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(542)】
3年前、川合玉堂展で「柳蔭閑話図」と対面した時は、その前で暫く立ち尽くしてしまいました。朝鮮旅行時の作品ですが、白い民族衣装の老人たちの会話が聞こえてきそうです。
閑話休題、『未確認動物UMAを科学する――モンスターはなぜ目撃され続けるのか』(ダニエル・ロクストン、ドナルド・R・プロセロ著、松浦俊輔訳、化学同人)では、アメリカのビッグフット、ヒマラヤのイエティ、イギリス・スコットランドのネス湖のネッシー、アフリカのモケーレ・ムベンベなどについて科学的な検証が行われています。現時点における未確認動物学の決定版と言っても過言ではないでしょう。
イエティについては、その存在を証明するとされるさまざまな証拠――目撃談、写真、雪上の足跡、頭皮、毛、手、足など――を一つひとつ検証した結果、その正体はヒマラヤヒグマだという揺るぎない結論に到達しています。
例えば、イエティの頭皮とされるものは、シーロー(中くらいの野生生物で、ヤギやレイヨウに似ているカモシカの仲間)の皮を成形したものだったのです。
「実は、ラインホルト・メスナーらが集めたイエティの本当の意味を示す最も決定的な証拠は、ヒマラヤ地方に住む民族の多くが、イエティはヒマラヤヒグマの怖さに基づいて生まれ、宗教的なシンボルに姿を変えた神話であることを知っているし認めているということだ」。すなわち、ヒマラヤに住む人たちは、イエティはヒマラヤヒグマであることを知っており、それを恐れ、崇める一方で、この注目を観光振興に利用しているというのです。
ネッシーについては、ネッシーを写した写真として最も有名な「外科医の写真」が、模型を使った捏造写真であったという事実を知れば、これ以上の論議は必要ないでしょう。
本書は未確認動物の正体を科学的に暴くだけでなく、人はなぜモンスター(未確認動物)の存在を信じるのかについても考察しています。この中で言及されているアメリカの調査が興味を引きます。「超常的なものを信じることは、私たちの社会であたりまえのことになっているのだ。念力、運勢占い、占星術、死者との交信、お化け屋敷、幽霊、アトランティス、UFO、モンスターという、9つの超常的なことの実在を信じるかと問われれば、3分の2以上のアメリカ人(68%)が少なくとも1つは信じている。厳密に数から言えば、超常現象を何も信じない人の方が、アメリカ人の社会では、『変わり者の少数派』なのだ」。私は、超常現象を1つも認めない変わり者の日本人であることを誇りにしています。