テクノロジー4.0の時代には、どういう世界が広がっているのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(770)】
栃木・那須で、晴天から大雨・大風・雷鳴へという天候の激変ぶりに驚かされました。そして、再び晴天の下、露天風呂でゆったりとした一時を過ごしました。イヌコリヤナギのハクロニシキ(白露錦)という園芸品種の薄桃色と白色が美しい葉が風に揺れています。エゴノキが白い花を下向きに咲かせています。小さな流れの畔では、総苞が白いヤマボウシが咲いています。鮮やかな黄色いキショウブの花が目を惹きます。帰路、半月と木星が並んでいるのが見えました。因みに、本日の歩数は12,113でした。
閑話休題、世の中の大きな流れを知っておきたいというときは、大前研一の本を開くに限ります。『テクノロジー4.0-――「つながり」から生まれる新しいビジネスモデル』(大前研一著、KADOKAWA)も、この期待にきちんと応えてくれました。
著者が、本書で強調していることが、2つあります。第1は、一つひとつのテクノロジーを単体で見るのではなく、ネットワークとして見よということ。第2は、スマホがあらゆるテクノロジーの媒介役として機能していることを認識せよということです。
著者は、テクノロジー4.0の時代を、このように説明しています。「従来どおりのリアル経済、ボーダレス(国境を超えた)経済、サイバー経済の中で、マルチプルという飛び道具を使って、見えない大陸=デジタルコンチネントを切り開いていく。そして従来型の企業を凌駕していく。それがデクノロジー4.0時代に成功するためのビジネスモデルなのです」。
テクノロジー4.0の機動力となる「マルチプル」とは、何でしょうか。「マルチプルとは、現在の株価が今年の収益の何倍なのかを示し、マーケットで企業の価値がいくらと見られているかを表す指標です。企業の時価総額を企業収益で割ったもので、これを1株あたりに換算したのが、株価収益率(PER)です」。将来の期待収益を表す「マルチプル」は、以前からある概念ですが、この組み合わせに意味があるということでしょう。
「『見えない大陸』に存在を確立しようとする企業は、その企業が『将来占領するかもしれない領土(デジタルコンチネント)から生まれる富』への期待によって、マルチプルはほぼ無限大とも言えるレベルになります。アマゾンがザッポスを取り込んだのもその一例で、アマゾンは自身のマルチプルによってザッポスを900億円で買収したわけです」。
興味深いことが書かれています。1つは、デフレも世界最適化の一つのプロセスだという指摘。「いいモノが安く手に入るというのはボーダレス経済のメリットのひとつです。日本では20年もの間、給料が上がっていませんが、飢え死にした人はほとんどいませんし、一部の人を除けば路頭に迷っている人もいません。それは物価が安くなっているからです。これをデフレと呼び、大変だと騒いで対策を立てようとしている20世紀型の考えの古い経済学者(そして彼らに頼っている政治家)がいますが、その人たちはポイントがずれているのです。『大変』ではないのです。・・・ボーダレス経済のメリットとは、給料が20年上がらなくても何とか暮らしていける物価水準である、ということです。20世紀の感覚のままでいる経済学者が、デフレ解消などと言って余計な対策を立てなくていいのです。これは世界最適化のプロセスなのです」。デフレでなぜいけないのかと常々考えてきた私は、この指摘に溜飲が下がった思いです。
もう1つは、アマゾンが「見えない経済大陸」の覇者になれたのはなぜかという設問に対する答えです。「Amazon.comの共同創設者ジェフ・ベゾス氏は、見えない経済大陸を制覇した人間の一人です。彼は(本という左脳型商品を扱う)単なる書店だと思われていたアマゾンを、いつの間にか巨大なeコマースの小売業者にしてしまいました。それは驚きをもって伝えられましたが、彼は20年前、アマゾンを作った時点で『自分は本屋になるのではない、自分は世界一のリテーラー、小売業者になるのだ』と宣言しています。彼にはじめからeコマースの広がりを考え、事業を進めてきたのです。・・・ベゾス氏は世界最大の小売業者になるという目標を実現させるため、ザッポスに追随するのではなく、(靴のような)右脳型の商品も扱えるザッポスを900億円で買収しました。ベゾス氏は返品自由というサービスが右脳型商品を扱うための決定的に重用な要素だと認識し、そのサービスを取り入れることによってeコマースでの成功を手中に収めたというわけです。ベゾス氏がしたように、足りないピースをつなげていくことで、(デジタル)島は(デジタル)大陸のようになっていきます」。本好きな私は、ベゾスは本に対する思い入れが特別強い人間と思い親近感を覚えてきたのですが、とんでもない思い込みだったようです。