榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

強権国家化している今こそ、国会議員は目を覚まし、斎藤隆夫に倣え・・・【情熱的読書人間のないしょ話(816)】

【amazon 『暗い時代の人々』 カスタマーレビュー 2017年7月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(816)

千葉・流山の江戸川沿いの水田の生物観察会で、モツゴ、ニホンナマズの幼魚、メダカ、アメリカザリガニ、ヌマガエルの幼体、トウキョウダルマガエルの幼体が見つかりました。イネが白い花を付けています。イネの花は花弁がなく、午前中の2時間ぐらいしか開花しません。オモダカの白い雄花も咲いています。池の水面に映ったハスの花が揺れています。マムシに注意の立て札が立てられています。

閑話休題、『暗い時代の人々』(森まゆみ著、亜紀書房)の「暗い時代」は、昭和6年の満洲事変勃発から昭和20年の太平洋戦争終結に至るまでの軍国主義の暗い時期を指しています。極限まで精神が抑圧されたこの時代にあっても、権力に毅然と立ち向かった人々がいたことを、本書が教えてくれました。

「1994年の小選挙区制導入以来、民意は正確に議席に反映されなくなったのは明白である。近年、アメリカに追随する政策や再軍備化、憲法改正と集団的自衛権の行使に向けた下準備が次々と推し進められていることに対しては、率直に怖い、という感情を持っている。そんな時代だからこそ、わたしは、大正から戦前・戦中にかけて、暗い谷間の時期を時代に流されず、小さな灯火を点した人々のことを考えていきたい」。日本の現状に対する著者の危機意識が本書を書かせたのです。

暗い時代に精神の自由を掲げて戦った9人が取り上げられていますが、一番強い印象を与えるのは、「斎藤隆夫――リベラルな保守主義者」です。

「斎藤隆夫もこんな(政治家や財界人の暗殺が相次いだ)時代を政治家として生き抜くことが怖くはなかっただろうか。いや、佐郷屋(留雄)に撃たれてなお『男子の本懐だ』と言い切った濱口雄幸のように、この『ねずみの殿様』(斎藤の渾名)も非業の死を覚悟はしていただろう」。

斎藤は、昭和11(1936)年5月7日に、「粛軍演説」として知られる演説を行います。「斎藤は、議会や内閣を無視した陸軍上層部の暗躍を白日の下に曝し、いまこそ立憲政治家の立ち位置はどうあるべきかを語る。これは翻って、軍部に対しての政治家たちの弱腰の批判にもなっている」。「国民のなかにある不安と不満はたまりにたまっていた。しかし、国民は治安維持法などがあって言論の自由がないためにそれを口にすることは出来ない」。

昭和13(1938)年2月24日の演説では、「斎藤は『憲法上に保証せられておりまするところの日本国民の権利自由及び財産、一言にして申しまするならば、即ち国民の生存権、これに向かって一大制限を加えんとするものであります』と真っ向から反対し、憲法遵守の姿勢を変えていない」。

そして、昭和15(1940)年2月2日、69歳の斎藤は2年ぶりに登壇し、世に名高い「反軍演説」を行いました。「『この現実を無視して、ただいたずらに聖戦の美名に隠れて、国民的犠牲を閑却し、曰く国際正義、曰く道義外交、曰く共存共栄、曰く世界の平和、かくのごとき雲を掴むような文字を列べ立てて、そうして千載一遇の機会を逸し、国家百年の大計を誤るようなことがありましたならば・・・現在の政治家は死してもその罪を滅ぼすことは出来ない』。いつの時代も『聖戦』の美名に隠れて遂行されたのは『弱肉強食の修羅道』であった。戦争とは常にそういうものである。・・・正論である。ただし、これをいまの時代から『正論』であるということは容易だけれど、『聖戦の美名に隠れて』戦争が遂行されていた渦中で、こうした論を唱えることはまったく容易でないとわたしは思う。風采のあがらない『ねずみの殿様』の中に、一体どうしてこんなにも強い信念が潜んでいるのだろうか。さらに斎藤は、戦時下の国民に忍耐を強いておきながら、戦時経済の波に乗って莫大な利益を得ている者がいる、と告発する。・・・しかしその勇気を持つ議員は他にいなかった。この演説の後段、全体の3分の2はすぐさま議会議事録から削除され、国民には知らされなかった。またこの演説によって、斎藤は懲罰動議にかけられ、衆議院議員を除名され、議席を失うに至る」。

「しかし、軍部の暴走はpoint of no returnにまでいってしまった。その後の悲惨な戦争と日本の死者310万人、戦争に巻き込まれて死んだ2千万人ともいわれるアジアの人々の命はとり返しがつかず、戦後の占領といまに続くアメリカの属国化については言うを俟たない。議席のない間も、斎藤は政府批判を執筆したが、これは公表できるはずがなかった」。この非常に重たい事実を、現在の国会議員全員に噛み締めてもらいたいと思うのは私だけでしょうか。