榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

時の権力者を背後から支えた黒衣の参謀たちの権謀術数・・・【山椒読書論(100)】

【amazon 『黒衣の参謀列伝』 カスタマーレビュー 2012年11月8日】 山椒読書論(100)

青空の下の古本市で、「わしを読まねば、損をするぞ」と語りかけてきた本が、『黒衣の参謀列伝』(武田鏡村著、学研M文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)であった。

見かけは地味だが、内容は自慢するだけのことはあると認めざるを得ない。

時の権力者の陰には、必ずと言っていいほど、黒衣の、すなわち僧衣をまとった参謀が存在していたというのである。彼らは権力者を背後から支え、勝ち残り、生き残るために、さまざまな方法を駆使して、情報収集・分析、謀略、危機管理など闇の部分を担当していたのだ。

後白河法皇には重源、源頼朝には文覚、木曽義仲には覚明、北条時頼には道元、後醍醐天皇には文観、足利尊氏には夢窓、今川義元には雪斎、徳川家康には崇伝、毛利輝元には恵瓊、柳生宗矩には沢庵、西郷隆盛には月照といった具合に、権力者たちは表舞台の裏側で、智謀豊かな参謀に補佐されていたのである。

著者は、将帥と参謀の役割について、「いわゆるキレイごとだけでは、参謀はつとまらない。キレイごとという大義名分は将帥(トップ)にまかせて、あらゆる角度から勝つためのプランニングをするのが参謀(スタッフ)である。そのため、当然のごとくすぐれた才略が要求される。参謀はトップの『頭脳』としての補佐機関である。だが指揮・命令権はない。状況判断にもとづく指導や助言はするが、決断と命令をくだすのは、あくまでも組織の最高責任者である」と述べている。

この書によって、歴史の暗部に潜んだまま、今までほとんど知られることのなかった黒衣の参謀たちが、いかに権力者を背後から支え、かつ操作したか、その権謀術数の実態が明るみに出されたのである。