今、こうして、自分が存在しているのは、まさに奇跡なのだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(995)】
千葉・流山の東深井古墳群の、当地に君臨した豪族たちの古墳の前に佇み、彼らのありし日に思いを馳せました。因みに、本日の歩数は10,958でした。
閑話休題、『生命進化の偉大なる軌跡』(アリス・ロバーツ著、斉藤隆央訳、学研プラス)を読んで、今、こうして、自分が存在しているのは軌跡なのだということに気づかされました。
「あなたの新しい個体としての遺伝的アイデンティティは、あなたの父親の精子のひとつが母親の卵管のどちらかを泳ぎのぼって、子宮へ下りてくる卵子と出会った瞬間に決定されたのだ。次にその卵子を考えよう。卵子は卵巣内の棲み家から、小さな細胞の群れを連れていきなり飛び出した。それからいくつもの指のようなふさで縁取られた卵管の漏斗状の口へ入り、卵管の内側に並ぶ小さな繊毛の助けを借りて運ばれていく。繊毛がぱたぱた動くと、管内の液体に流れを生み出すのだ。今度は一個の精子が激しく尾を振りながら必死に泳ぎ、子宮頸管をのぼり、子宮腔を通って卵管に入るところを思い浮かべよう。ここまで至るのに数日かかるだろう。この精子が幸運と優れた技量によって最初に卵子に到達する。1回の射精で、数億の精子が膣に注ぎ込まれるが、精子はすでに棲み家の精巣からそこまで長旅をしてきたのに、さらに旅をするのである。多くの精子は、膣から子宮頸管の細い通路へ入るまでに死に絶える。月のなかでタイミングが悪ければ、子宮頸管の粘液がバリアとなり、精子がそれ以上進むのを阻む。だが、排卵の時期には頸管粘液はもっと流れが良くなり糸を引くようになる。子宮頸管を通って子宮腔へ入るあいだに、さらに精子が置き去りにされるが、通過できたものはこの環境で勢いづき、いっそう激しく尾を振って上へ上へと泳ぎ、卵管に入る。卵子は化学的なシグナルを送って、精子に正しい卵管を選ばせる。卵子に到達する精子の数は、射精されたときの数のほんの一部だ。100万個に1個の精子しかここまで来られないかもしれない。それでもまだ競争は終わっていない」。信じられないほどの難関なのです。
「数百の精子がほぼ同時に卵子に到達する。卵子は四方八方を小さな精子に取り囲まれるが、やることをやるにはその精子のうち1個が必要なだけだ。いくつかは卵丘――排卵時に卵子が卵巣から飛び出して以来、卵子のまわりにくっついたままになっている暈状の細胞群――を通り抜ける。この細胞群を通過した精子は、透明帯という、卵子の膜を取り巻く分厚いゲル状の層に到達する。するともう逃げられない。透明帯が精子をとらえる。精子の頭部がゲルにつかまるのだ。小さな鍵が鍵穴に入るように、ゲルの糖タンパク質が精子の膜のタンパク質受容体にくっついてしまう。そしてその鍵が、あるものの錠を開ける。精子の先端から酵素を放出させて、1個の精子に透明帯を貫通させ、卵子自体の細胞膜へ到達させるのだ。このとき精子の膜は卵子の膜と接している。それから両者の膜が融合し、ふたつの細胞――小さな精子と大きな卵子――がひとつになる」。
これが、あなたの母親があなたを身籠もった瞬間です。遂に、あなたは数百万のライヴァルに打ち勝ったのです。これを奇跡と言わずして、何を奇跡と言うのでしょうか。
「私たちの進化の命運を予言するのは、6600万年前に、恐竜から身を隠していた哺乳類のどれかがサルに進化を遂げ、そのどれかが類人猿に進化し、類人猿のどれかが習慣的に地上を二足歩行する――手先がとても器用で、非常に賢い――ものになると予言するのと同じぐらい難しい。そんな進化の偶然が、私たちを取るに足らない平凡な存在と感じさせるようには思えない。私には、とにかく今ここに存在することが、途方もなく幸運に思える。今ここに存在しないことがどれほど容易にありえたか、ちょっとでも考えてみよう」。
「私たちの種が進化してきた歴史には、成り行きが変わったかもしれない時点や、生命の系統樹でさかのぼれる系統が、現在その木の梢にあたるものへと続かずに、短く刈り込まれていたかもしれない時点が無数にある。また個人として、あなたが母胎に宿る可能性はかぎりなく小さい、あなたの始まりは、数百万個のうちの『ある』精子が、その月に母親の片方の卵巣から放出された卵子にたどり着くかどうかにかかっていたのだ。そうならないことは、いとも容易にありえた」。
ヒトという種の進化の面から言っても、あなたや私という個人の面から言っても、今、こうして、存在していることは、まさに幸運、奇跡なのです。これほどの倍率を乗り越えて、この世に生まれてきた者が、この幸運、奇跡を無駄にしていいのでしょうか。幸運、奇跡に感謝しつつ、生ある限り、一度きりの人生を真剣に生き抜こうと、決意を新たにしました。