17年に一度だけ大量発生する不思議なセミを知っていますか・・・【山椒読書論(103)】
アメリカには、17年に一度だけ大量発生し、数週間後に死んでしまう、「周期ゼミ」と呼ばれる不思議なセミがいる。
それまで17年間、何もいなかった所で、ある夏にいきなり、せいぜい半径数十mぐらいの場所の中に、数十万匹のセミが現れて、ジージー大合唱するのである。
この周期ゼミに関する3つの疑問――●なぜ、こんなに長年かけて成虫になるのか? ●なぜ、こんなにいっぺんに同じ場所で大発生するのか? ●なぜ、17年なのか?――を掲げ、この謎を見事に解き明かしたのが、『素数ゼミの謎』(吉村仁著、石森愛彦絵、文藝春秋)である。
「なぜ、こんなに長年かけて成虫になるのか?」という謎は、遠い昔の氷河期の寒さが理由だというのである。従来、6~9年で成虫になっていた幼虫ゼミたちは、成長に必要な温度が高い日が減り、養分を摂取できない氷河期には、それまでのような短い期間では成虫になれず、まだしも暖かいアメリカ南部でも12~15年、寒い北部では14~18年かかるようになってしまったというのだ。
「なぜ、こんなにいっぺんに同じ場所で大発生するのか?」という謎に対しては、かつてのようにばらばらのタイミングではなく、同じ年に一斉に地上に出てきて、羽化し、交尾するセミたちは厳しい氷河期を生き延びることができたが、1年でもずれて地上に現れたセミたちは交尾相手がいないので、子孫を残せなかったというのである。すなわち、発生年がぴったり揃ったセミたちの子孫だけが生き残ったというのだ。
最大の謎である「なぜ、17年なのか?」には、「素数」の不思議な力が関係しているというのである。1と自分自身でしか割り切れない、1より大きな整数を素数と呼ぶが、17年という素数の周期を持つセミたちは生き延び、素数以外の周期のセミたちは絶滅してしまったというのだ。これは、どういうことか。例えば、ある場所に15年周期の群れ、16年周期の群れ、17年周期の群れ、18年周期の群れが住んでいたとする。非常に長い期間で考えると、周期が異なる群れがたまたま同じ年に発生して交雑(近いけれども少し違った仲間同士で交尾して、子供を残すこと)してしまうことが起こる。発生周期が異なる群れの交雑で生まれた子供たちは発生周期が混じり、ばらばらになってしまうので、次の発生年には交尾相手に出会えず、子孫を残すことができない。一方、交雑の機会が少ない群れは生き残ることができる。素数の17年周期の群れは、15年、16年、18年といった素数以外の周期の群れより最小公倍数が大きいので、他の周期の群れと出会い、交雑する機会が少ないというわけである。
こうして、長く過酷な氷河時代を乗り越え、現代まで生き残った17年周期ゼミたちは、きっちり17年毎に大合唱を繰り返しているのだ。