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最も発見・手術・治療が難しい膵臓がんの対策とは・・・【薬剤師のための読書論(22)】

【amazon 『外科医の腕は何で決まるのか』 カスタマーレビュー 2017年1月21日】 薬剤師のための読書論(22)

定期健診で膵臓の精密検査を勧められたことのある私にとって、膵臓がんは看過できない疾患である。『外科医の腕は何で決まるのか――がん手術のすべてがわかる』(羽鳥隆著、幻冬舎新書)は、膵臓がんの手術を数多く手がけている専門医の著作なので、内容は詳細かつ具体的であるが、一般人にも分かり易く解説されている。

「膵臓がんは治りにくいがんの代表ともいえ、自覚症状もほとんどないため、患者さんの多くは、がんが進んだ状態で見つかります。そのため膵臓がんの患者さんのうち、手術できるのは約3割、手術後の再発率は8~9割ともいわれています。それくらい治る可能性の低いがんなのです」。ということは、言い古されたことだが、膵臓がんで死なないためには、早期発見しかないということだ。

それでは、どういう検査を受ければいいのか。「人間ドックなどでよく行う超音波検査は、簡便で患者さんの負担が少ないというメリットがありますが、体格や体形によっては膵臓がよく見えないことがあり、膵臓がんを発見できないことも少なくありません。ですから、きちんと膵臓を調べるためには、造影CT検査やMRI検査を行うのが一般的です」。「私の場合、細胞検査をしてがん細胞が発見されなくても、造影CT検査やMRI検査でがんが強く疑われる場合には、患者さんに状況を説明して、手術をするかどうかを確認します。なぜなら、膵臓がんであっても、手術前の細胞検査でがんが100%見つかるわけではないからです」。

見つけ易い膵臓がんもあるとは、どういうことか。「膵臓がんは、発見された時点で進行していることの多いがんですが、ゆっくり育ってくるがんもあります。それが膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)といわれるものです。人間ドックなどで発見されたときは、『膵嚢胞(すいのうほう)』といわれるのが一般的です。・・・確かに初期の段階では良性なのですが、時間をかけてがん化することがあるのです。その1年間での割合は、IPMNと診断された人のおよそ1%といわれています。・・・膵嚢胞といわれた時点で膵臓の専門医に診察してもらい、定期的に検診を受けていれば、がん化したIPMNだけでなく、普通の膵臓がんも早めに発見されていた可能性があります。IPMNと診断された人は、くれぐれも定期的な検診を怠らないようにしてほしいと思います」。私事に亘るが、私も定期的に膵臓専門医の検診を受けている。

「膵臓がんの5年生存率が低い理由には、大きく2つあります。1つは、『早期発見が非常にむずかしい』ということが挙げられますが、もう1つの理由は、『がん自体の悪性度が高く、外科医の腕がよくても、再発が起こりやすい』ということです」。膵臓がんの手術は複雑で難しいのである。

いよいよ手術ということになった場合、腕のいいドクターを見つけるには、どうしたらよいのか。「もっとも確実なのは、病院で働く外科医や麻酔科医、看護師さんたちが、ご自分や家族が病気になったときに手術を頼みたいと思える外科医を紹介してもらうという方法ですが、現実的には限られた人しか、この恩恵にはあずかれません。そこで、次善の策としては、系列にとらわれない医療関係者や製薬関係者に聞いてみるという方法です。直接の知り合いでなくても、腕のいい先生、信頼できる先生の情報を知っていることも多いと思います」。私が長く働いてきた製薬業界の関係者には、確かに、ドクターに関する精度の高い最新情報を有している者が多い。

膵臓がんの治療の現況は、どうなっているのか。「膵臓がんに適した抗がん剤が開発される前は、手術しか方法がなかったのですが、いまは効果的な薬ができているので、抗がん剤と手術の両方でがんの治療をするのが一般的です。手術適応のある膵臓がんの治療の基本は、最初に手術をして、その後、抗がん剤治療を行い、がん細胞を消滅させるというものです。がんの程度が少し進んでしまった人の場合は、手術前に抗がん剤治療を行い、がんを小さくし、なおかつ転移がないことを確認してから手術を行います。これを『術前化学療法』といいますが、効果があるかどうかのデータは完全にそろっていないとはいえ、それでもやる価値はあり、順調に回復したケースもたくさんあります」。膵臓がんの治療は進化しているのだなあ。

一般向けの膵臓がんの本としては、最新・最善・最高の一冊と言っても過言ではないだろう。