英国のメイドたちの仕事、喜び、悲しみ、怒り、恋、結婚の実態・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1170)】
オニユリが橙色の花を俯き加減に咲かせています。ムクゲの白い花が小雨に濡れています。コスモスとヒメヒオウギズイセンが咲き乱れています。シマトネリコが小さな白い花をたくさん付けています。
閑話休題、『図説 英国メイドの日常』(村上リコ著、河出書房新社・ふくろうの本)のおかげで、19世紀後半~20世紀初頭の英国のメイドの実態を知ることができました。なお、私は、現在日本のメイド喫茶のメイドには興味がありませんので、念のため。
「彼女たちは、メイド――他人の家に雇われて、給料と住み込む部屋と食事をもらって働く家事使用人だ。・・・イングランドとウェールズあわせておよそ130万人の女性が一般家庭の屋内で家事労働に従事していた。職業をもつ女性の最大多数を占め、3人に1人は家事使用人だったのだから、あまりにもありふれた、見慣れた存在であったはずだ。・・・さまざまなタイプの図像を集め、メイドたちの人生を再構築してみたい。『いちばんふつうの女の子たち』を脇役から主役に置き換えて、彼女たちの目線に寄り添いながら、その仕事、喜び、悲しみ、怒り、恋や結婚、未来について考えてみよう」。
いずれのテーマ、図像も興味深いが、「メイドの恋人」の章では、マーガレット・パウエルが、苦々しい思いで自身のメイド時代を振り返っています。「お嬢様たちは社交界にデビューして、舞踏会で若い男と出会い、踊ったり、私的なパーティーに行ったりするのに、メイドがボーイフレンドをつくれば、その彼は『フォロワー』と呼ばれることになるのだ。私は、これはさげすみの言葉だと感じる。好きな男性に会うために、裏通りにこそこそ出て行く人たちを連想してしまう。白昼堂々とは会えない相手のように。どうしてあんなことしなければならなかったんだろう。自分に娘を男とくっつけるためには、こまごまとお膳立てするくせに、使用人が恋をすることの何がいけなかったっていうのだろう」。
上級使用人から下級メイドへのセクシュアル・ハラスメントも少なくなかったようです。さらに、「使用人を誘惑するご主人様」もいたようです。「総体的には、メイドたちが交渉を持つ相手は同じ階級の男性が多かった」。「大方のメイドたちは、望みの薄い相手に期待はせず、同じ階級の男と出会い、デートし、そして結婚した。(前述の)マーガレットが語ったとおり、雇い主の監視と長時間労働の制約があり、相手を見つけて関係を育むためにはそれなりの工夫と努力が必要だった」。「そんな中でメイドたちが折々に出会える外部の男性といえば、都会においてはパトロール中の警官、近くの兵舎の軍人、届け物にくる商人、新聞や郵便の配達人などだった。・・・規模の大きな田舎の邸宅であれば、頼もしい領地の労働者や、ひと目をはばからず花を贈ってくれる庭師、ハンサムで長身なフットマンたちと、その『あがり』の姿である執事などが恋の相手になった」。
稀には、「身分違いの恋」を実らせたケースもあったようです。
全ページに掲載されている図像が、理解を助け、想像力を掻き立ててくれました。