ネオダーウィニズムに対する異議申し立ての書・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1315)】
運よく、キセキレイを見つけることができました。セグロセキレイ、シジュウカラ、カワラヒワ、モズ、コガモの雄、ヒドリガモの雄、ヒドリガモの雌、オオバン、コサギ、ダイサギ、アオサギをカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,464でした。
閑話休題、『若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間』(ジョシュ・ミッテルドルフ、ドリオン・セーガン著、矢口誠訳、集英社インターナショナル)は、老化を見据えることを通じて、進化の問題に考察が及んでいます。
著者が提唱する「人口統計学的老化理論」は、著者自身が認めているように、ネオダーウィニズム全盛の現在にあっては、まだまだ少数派だが、その視点はユニークで説得力があります。
著者が主張したいことは、このようにまとめることができます。「ダーウィン以来、『ダーウィンの唱える生存競争における熾烈な個体間競争のプレッシャーの下で、寿命が延びることを妨げているものはなにか?』という疑問は、老化に関する大きな謎だった。この疑問に対するわたしの回答は、『すべての動物種は、自分たち(=捕食者)が食物にしている生産者(=被食者)種を食い荒しすぎてはいけないという絶対条件を課せられているため、個体の生存競争は抑えられ、やわらげられてきた』というものだ。個体間競争は、かつてない速さの生殖のためのものであり、これが共有地の悲劇――食物連鎖の土台が危うくなって全員が苦しむという事態――に行きつくのは避けがたい。その結果として起こる個体激減はあっという間で、破壊的だ。まずは土台ではじまり、全生態系が壊滅し、不毛の土地が残される。よりバランスのとれた方向に進化した近隣の生態系は、その後も拡大をつづけ、空白地帯となった不毛の土地を埋めていく」。
「それゆえに、動物は自分たちの個体ダーウィン適応度(個体数の増殖率)を最大化しないことをずっと昔に学んだということになる。臨界点を超えるほど繁殖率が上がると、あっというまに絶滅してしまうからだ。老化は、生産者種を守るために総生殖率が制限されている環境において、進化してきた。こうした環境では、『老化の代償』は発生しない。だからこそ、老化はさまざまな集団的利益に抵触することなく、ほとんどすべての動物において進化することができたのである」。
こう考えれば、3つの利益が得られるというのです。
●捕食者にとって老化は、生活環境がいいときと悪いときの死亡率を平均化する助けとなる。老化があるおかげで、集団は環境収容力を超えて飢餓や疫病で絶滅する危険を避けることができる。
●被食者からすると、老化があるおかげで、コミュニティにおけるいちばん脆弱なメンバーはもっとも若い個体ではなく、もっとも年をとった個体になる。捕食者が最初に狙うのは、もっとも弱くてもっとも動きののろい個体である。年老いて衰弱した個体を捕食者の餌食に差しだすことで、若くてより優れた個体が大人に成長するチャンスをあたえられる。
●細菌感染の危険にさらされているすべての動物にとって、老化とは、個体の入れ替わりを促進し、集団の多様性を維持することで、病気や疫病で全員がいっぺんに死ぬリスクを低下させてくれる。個体の入れ替わりが速ければ、進化のスピードが速い細菌に対する新しい防衛機構を進化させる助けとなる。老いたものの免疫システムが衰弱していれば、感染で最初に死ぬのはそうしたものたちであり、ほかの個体は集団免疫を発達させるチャンスを手に入れる」。
すなわち、ほとんどの動物種に何らかの形の老化現象があるのは、動物が敢えて老化を獲得するように進化してきたからだというのです。では、なぜ、動物は老化を獲得したのでしょうか? 集団があまりにも急速に繁殖し、一気に衰えて絶滅の危機を迎えないようにするためだというのです。
●老化は私たちの体の中に組み込まれている、●老化はたまたま起こるのではなく、遺伝子によって管理され、コントロールされている、●人間の自己破壊は、幼児期の成長や思春期の性的な成熟と同様、予定されている、●成長、性的成熟、老化はすべて、DNAにプログラムされたスケジュールに則って進行する――と主張しているのです。
一定の寿命がある――予定どおりに死ぬ――ことは、個体にとっては悪いことだが、コミュニティにとってはいくつもの利点があるというのです。「老化とはなんであり、それがいかに形成されたかを理解するには、進化をコミュニティの視点から見る必要がある。あなたの視点が利己的遺伝子説に縛られていれば、老化はパラドックスでしかない。しかし、自然選択をもっと広いコンテクストでとらえ、複数の集団がダーウィンの唱えた古典的生存競争を演じるのだと考えれば、老化を理解することは可能である。ここ50年間における進化論は、個体の生存競争という視点からのみ研究されてきた。これこそが、科学界が老化の理解に失敗した根本原因だ」。ネオダーウィニズムの個体間自然選択説に対する、集団間自然選択説の立場からの異議申し立てなのです。
個体間自然選択説と集団間自然選択説のいずれに軍配を上げるべきかの判断は難しいが、進化に関心を持つ者にとって、本書は見逃すことのできない一冊です。