榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自分の思いは断ち切り、親友になり代わって美しい従妹に愛の告白をしたシラノ・ド・ベルジュラックの物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1855)】

【amazon 『シラノ・ド・ベルジュラック』 カスタマーレビュー 2020年5月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(1855)

ノイバラの白い花を撮影中に、アシナガコガネがいるのに気がつきました。観察していると、何と、交尾中の雄Aから雌を奪おうとした雄Bが、逆にAの長い脚で蹴落とされてしまったではありませんか。ウンシュウミカンの芳香を放つ白い花の蜜をアリが吸っています。シオカラトンボの未成熟の雄、あるいは雌が、ガを捕らえる瞬間を目撃しました。我が家の小さな桃色のバラの花にニホンミツバチがやって来ました。庭の片隅でサツキが咲き始めました。因みに、本日の歩数は11,597でした。

閑話休題、『シラノ・ド・ベルジュラック』(エドモン・ロスタン著、辰野隆・鈴木信太郎訳、岩波文庫)を読んで感じたことが、3つあります。

第1は、読む前に抱いていた香り高い恋物語というイメージが覆されたこと。大衆演劇的な戯曲に仕上がっていることで、当時の観客たちは、自分の身の周りでも起こりそうな話だと親近感を覚え、36歳という若さで死去した悲劇の男シラノ・ド・ベルジュラックに同情を惜しまなかったことでしょう。

第2は、シラノは17世紀フランスに実在した人物だが、この作品では、その作家、哲学者、理学者といった面はすっぱり捨象されていること。自分の異常に大きな鼻に劣等感を抱いていた剣術家シラノが、美しい従妹ロクサアヌに対する思いを断ち切り、年下の親友のクリスチャンになり代わってロクサアヌに愛の告白をするという侠気(おとこぎ)に焦点を絞ったことで、この脚本は大当たりし、シラノは一躍、誰知らぬ有名人になったのです。

第3は、当時も今も、人間としての中身は乏しくても見た目が美しい男や女は得をするんだなあ、ということ。腹立たしいことに、私の周りでも、しばしば見られる事例です。本作品のロクサアヌは、自分が本当に愛していたのは、美男ではあるが見かけ倒しのクリスチャンではなく、心の籠もったシラノだったと気がつくのだが、それがシラノの臨終場面というのは、いくら何でも遅過ぎますよね。