いくつもの言葉が心に残るエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2197)】
千葉・野田の清水公園で、新緑のイロハモミジ、さまざまな色合いのツツジを堪能しました。我が家の庭で、キンギョソウが咲き始めました。因みに、本日の歩数は11,684でした。
閑話休題、『3652――伊坂幸太郎エッセイ集』(伊坂幸太郎著、新潮文庫)を読んで、いくつもの言葉が心に残りました。
「幾つもの映像や文章に影響を受け、そして現在」は、こう始まっています。「僕に影響を与えた言葉やメッセージが無数にある。そのうちの幾つか。たとえば、『絵とは何か』というタイトルの本。十代のころ父からもらった本だ、帯にこうある。『人の一生は、一回かぎりである。しかも短い。その一生を<想像力>にぶち込めたら、こんな幸福な生き方はないと思う』。この非常に魅力的で無責任な言葉に、僕は唆された」。
「読書亡羊」は、こんなふうです。「読書亡羊、という四字熟語が好きです。よく覚えていないのですが、『物事に熱中するあまり、肝心なことを忘れる』とか、そういう意味合いだったと思います。どこかの羊飼いが読書に夢中になって、羊を見失ったのでしょう。その情景を想像するだけで、楽しくなります。・・・羊飼いが羊を見失うほど、面白い小説。そういう本に僕も、出会いたいと思っています。できるならば、いつか自分でも書ければいいな、そう願ってもいます」。「読書亡羊」という言葉は、浅学にして知りませんでした。
「熱帯と化した東京を舞台に灼熱のファンタジー」は、佐藤哲也の『熱帯』に対する書評です。「(佐藤哲也の小説を読む時)物語に惹きこまれると同時に、小説の力に興奮し、だからこそ、幸せな気持ちになるんです。今回の、『熱帯』もまさにそうでした。いや、と言うよりも、傑作揃いの佐藤哲也作品の中でも、もっともいろいろな楽しみ方ができる小説かもしれません。・・・佐藤哲也は、毎回、『他の何にも似ていない』オリジナルの物語を創り出し、それを独特のユーモアでくるんで、提供してくれる、そういう作家です。この作家と同じ時代に生きることができ、そしてその作品を母国語で読めるということを、僕たちはもっと誇ってもいいと思います」。私も『熱帯』の書評を発表していますが、大変勉強になりました。
「いいんじゃない?」には、著者の妻が登場します。「帰宅して、僕は、『会社を辞めて、小説頑張ってみようかな』と彼女に打ち明けました。『いいんじゃない?』というのが彼女の返事でした。投げ遣りでも、重くもなく、軽やかだったのをよく覚えています。その軽やかな返事のおかげで、僕の決心はつきました。正しい決断だったのかどうかはまだ分かりませんが、でも、あの時の妻の言葉は、最高の贈り物だった、と思っています」。いい夫婦ですね。