榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

本書を読んだ後には、世の中が全く変わって見える・・・【情熱的読書人間にないしょ話(2705)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年9月12日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2705)

オオスズメバチ(写真1~5)が樹液に集まっています。写真1の一際大きな個体は今年巣立った新女王バチかもしれません。そこに、上方からガのツマキシャチホコの幼虫(写真3~5)が近づいてきました。ニア・ミスで、どうなることかと息を呑んだが、2cmほどまで接近後、何事もなく通り過ぎていきました。モンスズメバチ(写真7~9)が木の洞に作った巣を出入りしています。オンブバッタの交尾(写真9、10の、大きな雌の背中に乗っているのが雄)を目撃しました。ツチイナゴの幼虫(写真11、12)、ツマグロオオヨコバイ(写真13)、ガのアカマダラメイガ(写真14)をカメラに収めました。オオカマキリ(写真15、16)の胸部の色を確かめようとしたら、強く噛まれてしまいました。痛っ!

閑話休題、『具体と抽象――世界が変わって見える知性のしくみ』(細谷功著、一秒漫画、dZERO)は、真正面から「具体」と「抽象」を考えようという意欲的な試みです。それだけに、四コマ漫画や図解という手段を採用するといった工夫を凝らしています。

「『わかりやすさ』の象徴が『具体性』です。本でもテレビ番組でも講演でもネットの記事でも、『具体的でわかりやすい』表現が求められ、『抽象的な表現』は多数の人間を相手にした場合には徹底的に嫌われます。ところが本書で表現したいのはその抽象概念そのものです」。

著者は、社会や組織が成熟期に入った今の時代こそ、「抽象概念を扱う」という、不連続な変化を起こすために必要な知的能力が求められているというのです。

「『抽象化を制するものは思考を制す』といっても過言ではないぐらいにこの抽象という概念には威力があり、具体と抽象の行き来を意識することで、間違いなく世界が変わって見えてきます。人間が頭を使って考える行為は、実はほとんどが何らかの形で『具体と抽象の往復』をしていることになります。つまり、『具体化』と『抽象化』が、人間しか持っていない頭脳的活動の根本にあるということなのです。それほど重要な概念であるにもかかわらず、普通に生活したり、学習したりしている範囲では、大抵の人はこのことを体系的に学ばずに一生を終えてしまうのです。学校でも職場でも、ほとんど明示的な形では教えてくれません」。そこを、本署が教えてくれるというわけです。

「具体」が、▶直接目に見える、▶「実体」と直結、▶一つ一つ個別対応、▶解釈の自由度が低い、▶応用が利かない、▶「実務家」の世界――であるのに対し、「抽象」は、▶直接目に見えない、▶「実体」とは一見乖離、▶分類してまとめて対応、▶解釈の自由度が高い、▶応用が利く、▶「学者」の世界――だと、「具体」と「抽象」の特徴が対比されています。

「抽象化とは一言で表現すれば、『枝葉を切り捨てて幹を見ること』といえます。文字どおり、『特徴を抽出する』ということです。要は、さまざまな特徴や属性を持つ現実の事象のなかから、他のものと共通の特徴を抜き出して、ひとまとめにして扱うということです」。

抽象化の最大のメリットとは何でしょうか。「それは、複数のものを共通の特徴を以てグルーピングして『同じ』と見なすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になることです。つまり『一を聞いて十を知る』(実際には、十どころか百万でも可能)です」。

「『上流から下流へは質から量への転換』。このような点からわかるように、基本的に具体の世界は『量』重視であるのに対し、抽象の世界では『質』重視であるとともに、『量が少なければ少ないほど、あるいはシンプルであればあるほどよい』という世界です。抽象化の帰結として、抽象度が上がるほど異なる事象が統一されて『同じ』になる一方で、抽象度が下がって具体化するほど数が増えることになります」。

「抽象化して話せる人は、『要するに何なのか?』をまとめて話すことができます。膨大な情報を目にしても、つねにそれらの個別事象の間から『構造』を抽出し、なんらかの『メッセージ』を読み取ろうとすることを考えるからです。しかもそういった『構造』や『メッセージ』を複数の階層からなる抽象のレベルで理解しているので、1分なら1分なりの『要するに』を、30分なら30分なりの『要するに』を話すことができます。・・・重要なことは、膨大な情報を目に前にしたとき、その内容をさまざまな抽象レベルで理解しておくことなのです。抽象化の能力は、インターネッと上にあふれる膨大な情報から自分の目的に合致した情報を短時間で収集したり分析したりする場面でとくに力を発揮します」。

いささか理屈っぽいが、頭の筋肉を鍛えるには、恰好の一冊です。