榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

68年間、国内外の推理小説を読み漁ってきた私が選ぶNo.1・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3388)】

【読書の森 2024年7月22日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3388)

千葉・柏の「あけぼの山農業公園」では、ヒマワリ(写真1~6)が見頃を迎えています。オオガハス(写真7~9)、ハス(写真10~15)、セイヨウスイレン(写真16~19)が咲いています。

閑話休題、『身代りの女』(シャロン・ボルトン著、川副智子訳、新潮文庫)を一気に読み終えたが、膨大な付箋で針鼠のようになってしまいました。68年間、国内外の推理小説を読み漁ってきたが、これは私が選ぶNo.1といっても過言ではありません。

英国のオックスフォード市――。ある夏の夜、名門パブリック・スクールを卒業し、大学入学資格試験の結果発表を翌日に控えた優等生6人組――男子のフェリックス、ザヴィエル、ダニエル、女子のタリサ、アンバー、メーガン――が、いつもの度胸試しに興じます。6人で車に乗り込み、深夜の高速道路を短時間逆走するというものです。この夜はダニエルがドライヴァーを務めたが、対向車が炎上するという大事故を起こしてしまいます(後に、母娘3人が死亡したことが明らかになります)。

どうすればいいのか、6人は議論するが、なかなか結論が出ない中、一番学術優秀なメーガンが自分一人で運転していたことにして自首すると申し出ます。そして、真実を記した念書を作成し、全員に署名させ、念書を掲げた5人の写真を撮ったメーガンは、この借りは刑務所から出所した時に返してもらうと5人に約束させます。

メーガンは、なぜ、自ら一人で罪を背負うと申し出たのでしょうか。

想定を大きく上回る20年という長い刑期を終えて、出所してきたメーガンは、5人にタリサの屋敷に集合するよう求めます。20年間、メーガンに手紙を出さず、面会にも行かなかった5人は渋々、従います。タリサに至っては、メーガンの刑期が長くなるように、法曹界に影響力を持つ弁護士の父親を介して卑劣な工作を弄していたのです。それぞれの分野で成功者になっている5人――アンバーは将来を嘱望されている副大臣、タリサは有名法律事務所のシニア・パートナー、フェリックスは自力で財を成した実業家、ザヴィエルは凄腕の投資銀行家、ダニエルはイングランドのトップ・レヴェルの学校の校長――に対し、メーガンは約束の履行を迫ります。

メーガンは、いったい、彼らに何を要求したのでしょうか。

メーガンは、5人に有無を言わせぬ効力を持つ念書とフィルムをどこに隠しているのでしょうか。

予想だにしなかった惨劇の末に、思いがけない真相が明らかになります。

どんでん返し、さらに、どんでん返しと、息をもつかせぬストーリー展開は推理小説の醍醐味を存分に味わわせてくれます。そして、人間が内包する弱さを私たちの眼前にぐいと突きつけてきます。