榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

薬剤師の人間力向上講座(その3)――老化は治療できる病気だという驚くべき主張・・・【薬剤師のための読書論(43)】

【医薬情報専門サイトm3.com薬剤師 2021年4月20日号】 薬剤師のための読書論(43)

あなたは、「老化は病気である」と言われて、素直に頷けるだろうか。そう主張する著作が出現しただけでも驚きなのに、その主張者が老化の世界的権威というのだから、衝撃的である。医療担当者としては、米国を始め世界各国で注目を浴びている書物の内容を何も知らずに済ますわけにはいかないだろう。

健康寿命を長くする

『LIFESPAN――老いなき世界』(デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント著、梶山あゆみ訳、東洋経済新報社)の著者、デビッド・A・シンクレアは、ハーヴァード大学医学大学院の遺伝学の教授で、同大学ポール・F・グレン老化生物学研究センターの共同所長を務めている。

589ページある本書で著者が主張しているポイントは、①老化は病気である、②老化は病気なのだから、予防・治療が可能である、③老化を予防・治療すれば、健康寿命を驚異的に長くすることができる――の3つである。

著者は、こう断言している。「今現在の老化研究は、1960年代のがん研究と似たような段階にある。老化がどのようなもので、私たちにどんな影響を及ぼすものなのかについては、すでに十分な理解がある。しかも、老化の原因は何か、どうすればそれを食い止められるのかについても、研究者のあいだで意見の一致を見つつある。この様子で行くと、老化を治療するのはそれほど難しくなさそうだ。少なくとも、がんを治癒させるよりはるかに簡単なはずである」。

老化は病気である

著者は、老化とはエピゲノム情報の喪失と考えている。生体内には2種類の情報があり、1つはDNAというデジタル情報、もう1つはエピゲノムというアナログ情報である。劣化したアナログ情報は回復できるというのだ。「私たちは古いDVDプレイヤーのようなものだと私は考えている。だからといって気を落とすことはない。むしろこれは嬉しい話だ。遺伝子変異のせいで老化が起きるのだとしたら、それに対処するのは一筋縄ではいかない。バックアップしていない情報が失われるのと同じで、もう元に戻すことはできないからである。しかし、DVDの表面にひっかき傷がついただけなら、普通は情報を回復できる。それと同様のプロセスを用いれば、若返りも可能だというのが私の考えだ。若返るためには、傷を取り除く研磨剤を見つけさえすればいい。そしてそれは見つかると、私は確信している」。

なお、現在、著者らが開発に積極的に取り組んでいる化合物、薬剤について、詳細な情報が記されている。

長寿遺伝子を刺激する

画期的な研磨剤が見つかるまでの間、私たちにも実行できる、老化を予防する有効な手立てがあるのだろうか。著者は、●食事の量や回数を減らす、●きつめの運動をする、●高温や低温に体をさらす、●タバコや有害な化学物質、放射線を避ける――ことを勧めている。適度なストレスがエピゲノムにプラスに作用し、長寿遺伝子を刺激するというのだ。

避けて通れないものとして老化を受け容れるのではなく、老化は治療できる病気と前向きに捉え、健康寿命をぐーんと延ばそうではないか。