榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

華麗な極楽鳥39種の形態と習性をとことん追究した大型写真集・・・【情熱の本箱(13)】

【ほんばこや 2014年2月5日号】 情熱の本箱(13)

極楽鳥 全種――世界でいちばん美しい鳥』(ティム・レイマン、エドウィン・スコールズ著、黒沢令子訳、日経ナショナル ジオグラフィック社)は、目も心も奪われてしまうオール・カラーの大型写真集である。

「8年の歳月、18回に及ぶ現地調査、51カ所ものさまざまな調査地点・・・『極楽鳥』と呼ばれるフウチョウ科の鳥は、全部で39種。そのすべての種の野生状態での撮影に、私たちは史上初めて成功した!」という誇らかな宣言で始まる。

ニューギニアの人里離れた奥地で、フウチョウはほとんど人目に触れず、風変わりな暮らしをしている。極彩色で手の込んだ飾り羽を持ち、習得するのに大変な努力を要する求愛行動を展開する。この求愛行動を西洋人で初めて実際に目にしたのは、チャールズ・ダーウィンとは別途に自然選択説に到達したアルフレッド・ウォレスであった。

「極楽鳥の魅力は主に2点ある。どの種を見ても、艶やかな風貌だということと、驚くほど多様性があることだ。極楽鳥の魅力は、そんな変わった風貌だけでなく、種ごとに特徴が大きく異なっていることにもある。フウチョウ科の鳥39種がどれだけ美しくても、どれも似た風貌をしていたら、これほど興味を引くことはないだろう。同じ科の鳥がこれほど異なる進化を遂げたのはなぜなのか」。

「極楽鳥の雄がもつ装飾には、驚くほどの多様性がある。体長の3倍もある長いリボンのような尾をもつもの。頭や体、尾からワイヤーのような羽が目立って突き出しているもの。なかにはあまりにも羽らしくないので、プラスチックでできた人工物に見えるものもある。羽でできた『扇』状のものが胸から広がって、上半身を包み込んでしまう種も多い。長い飾り羽を一気に広げると、一瞬にして鳥の体が色鮮やかな花束に変身するものもいる。羽のケープ(肩掛け)で体形を隠すと同時に誇張もする鳥も、少なくとも1種はいる」というにぎやかさだ。

「ダーウィンはウォレスと共に(しかし、別途に)自然選択理論に行き着いたが、さらに性淘汰(性選択)の概念も発見した。この性淘汰の概念が枠組みとなってようやく、極楽鳥の過剰なまでの装備や類いまれな多様性がなぜ生じたのかを理解することができるのだ」。『人間の進化と性淘汰』の中で、ダーウィンが、「雄が優雅な飾り羽や素晴らしい羽の色を雌の前で丁寧に誇示しているのを見ると、パートナーとなる雄の美しさを雌が評価していることは疑えない」と述べている。また、クリフォード・フリス、ドーン・フリスが、『極楽鳥――自然・芸術・歴史』に、「雄は成鳥がもつ羽に換わり、伝統的なディスプレイ(ダンス)舞台を作ると、大半の時間をそこで過ごす。雄はできるだけ多くの雌を手に入れるという究極の目的のために、肉体の限りを尽くしてディスプレイするのだ」と記している。

「極楽鳥の世界では、何が魅力的であるかというルールは雌が作り、コントロールしている。求愛を受け入れる決断を下すのは、雄ではなく、雌だ。雄はたいていあまり選り好みをしないもので、雌なら誰でもよい。パートナーを選ぶゲームにおいて、雌のほうはこれほど単純ではない。(雄は子育てに参加しないので)シングルマザーになるのだから、パートナーを選んで交尾するのにかける投資は生半可ではない。雌は巣作り、餌運び、捕食者や競争相手から身を守ることをすべて、雄の助けなしに行わなければならない。そこで、雌がたった1つ気にする点は、子孫がきちんと繁殖できるかどうかだ。極楽鳥の雌は自分の行動範囲にいる雄をすべて評価して回る必要がある」というのだ。

極楽鳥は、地球上で最も美しく、最も驚異的な生き物と言えるだろう。いつの日か、ニューギニアに極楽鳥を見に行きたいなあ。バード・ウォッチャーのみならず、生き物好きにとっては見逃せない、滅多に出会えない貴重な写真集である。