榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

国鉄と銀行の改革を成し遂げた男の精髄・・・【あなたの人生が最高に輝く時(32)】

【ミクスOnline 2013年11月15に号】 あなたの人生が最高に輝く時(32)

リーダー

テレビ番組「カンブリア宮殿」に登場した細谷英二が、「三流のリーダーは『カネ』を残す、二流のリーダーは『事業』を残す、一流のリーダーは『人』を残す」と自然体で語るのを見た瞬間から、細谷の大ファンになってしまった。

JR東日本副社長として、その後はりそなホールディングス会長として、目覚ましい実績を残し、2012年11月に逝去した細谷が、鬼籍に入る2カ月前に行った講演「経営教室」を収録したのが、『どんな会社も生まれ変わる――国鉄と銀行を変えた男の再生論』(細谷英二著、日経BP社)である。

改革

この講演は、「1時間目:企業再生の極意――改革は最初の100日が勝負」、「2時間目:企業風土の改革――銀行の常識は世間の非常識」、「3時間目:大企業病の予防策――社外取締役と女性は正しく使え」、「4時間目:カリスマと後継者――社内に4%の『鬼』を育てよ」から成っている。

「企業再生の極意」は、「旧国鉄、りそなで働いてきましたが、鉄道と銀行に共通していたのは官僚的な組織文化です。経営は本来、ピーター・ドラッカー氏が言うように顧客創造ができないと衰退していくもの。いわば、顧客を第一に考えなければ経営は成り立たないはずですが、規制産業である鉄道や銀行は、どうしても永田町や霞が関を意識した経営になり、お客さまは二の次になってしまいがちでした」と始まる。

――2003年6月に1兆9600億円の公的資金注入を受けたりそなは、当初、飛べない小さなアヒルのような組織でした。それが普通の鳥になり、今はワシのように高く舞い上がろうとする途上にあります。未来志向の先見的な企業を目指す『ビジョナリーカンパニー』の観点に立てば、ホップ、ステップ、ジャンプの最終局面に入りつつあると言えるかもしれません。

――社員には、「最初の100日間でバランスシートの改革を実行する」と宣言し、再生の基本方針として「厳格に」「嘘をつかない」「先送りしない」という方針を掲げました。

――私は就任当初から「銀行は特別な産業ではない。普通の会社になろう」と呼びかけ、「サービス業としての自覚を持とう」と強調しました。

「企業風土の改革」では、「一般的な銀行では窓口に女性社員が座り、顧客のお金や振り込みの伝票を受け取って作業しています」、「りそなは顧客の待ち時間を大幅に短縮するため、窓口に『クイックナビ』という決済処理端末を国内で初めて導入しました。顧客の口座と決済システムが連携しており、振り込みや出入金の際に伝票に記入する必要も一切ありません。この端末にお金を入れれば、振り込みの処理を短い時間で実行できます」、「この伝票処理の電子化が営業時間の延長を支えています」と述べている。実際、他の銀行が午後3時には店舗を閉めてしまうのに対し、りそなは「午後5時まで営業」を実現したのである。

「大企業病の予防策」では、「今後の日本企業共通の課題としてダイバーシティー(多様性)に関するマネジメントがあります。私は就任直後に『女性が活躍できるナンバーワンの銀行にする』と標榜しました」、「銀行の企業文化を再構築する中、銀行界の常識だった男性主導型の見直しは必須でした。顧客の半分は女性であり、家計の財布を握るのも女性です」と語っている。

後継者

「カリスマと後継者」では、「いろいろな事業会社のトップとのつき合いで感じるのは、リーダーの器量以上の組織は絶対にできないという事実です」と強調している。

「りそなが求める役員像」というのが、非常に興味深い。7つの資質――変革志向の強さ、勝ちにこだわる、顧客の喜びを追求、問題を見極める、新しいりそなを創る、情報を嗅ぎ取る、組織を動かす力――の全てを兼ね備えることが求められているからだ。

新生

いわゆる「再生」という範疇を超えた、古い体質の企業風土を壊し、新しい企業モデルを根付かせる「新生」を、その信念、実行力、人間性で実現させた細谷の精髄が、この小冊子に凝縮している。