榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

読後、若き日の失恋の切なさが生々しく甦ってきた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1296)】

【amazon 『あいびき・めぐりあい』 カスタマーレビュー 2018年11月9日】 情熱的読書人間のないしょ話(1296)

あちこちで、紫色のホトトギス、白色のホトトギスが咲いています。我が家の庭の片隅では、紫色のタイワンホトトギスが咲いています。

閑話休題、今朝(2018年11月9日)の朝日新聞の「天声人語」で、イワン・ツルゲーネフ著、二葉亭四迷訳の『あいびき』が取り上げられています。初めて恋を知るにはうってつけの本、自然描写の豊かさに驚かされる、と紹介されています。ツルゲーネフの作品はいろいろ読んできたが、この作品は知らなかったので、早速、短篇集『あいびき・めぐりあい』(イワン・ツルゲーネフ著、二葉亭四迷訳、新潮文庫)を繙きました。

語り手が、9月中旬に、樺林の中で、きちんと座っている農夫の娘らしい少女を見かけます。「雲は狂い廻わる風に吹き払われて形を潜め、空には繊雲一ツだも留めず、大気中に含まれた一種清涼の気は人の気を爽かにして、穏かな晴夜の来る前触れをするかと思われた。・・・フト端然と坐している人の姿を認めた。眸子(ひとみ)を定めてよく見れば、それは農夫の娘らしい少女であッた。二十歩ばかりあなたに、物思わし気に頭を垂れ、力なさそうに両の手を膝に落して、端然と坐していた」。

少女は、物音に耳を澄ましたり、溜め息をついたり、涙を拭ったりして、一途に誰かを待っている様子です。

やがて、茂みから、いかにも傲慢そうな若い男が姿を現します。「少女はそなたを注視して、にわかにハッと顔を赧らめて、我も仕合(しあわせ)とおもい顔にニッコリ笑ッて、起ち上ろうとして、フトまた萎れて、蒼ざめて、どきまぎして、――先の男が傍に来て立ち留ってから、ようやくおずおず頭を擡げて、念ずるようにその顔を視詰めた」。

それなのに、男は、明日、ペテルブルクに向けて発つと、少女に冷然と別れを告げたのです。少女は必死に思い止まらせようとします。しかし、男は大股で悠々と立ち去ってしまいます。残された少女は・・・。

「日は青々とした空に低く漂ッて、射す影も蒼さめて冷かになり、照るとはなくてただジミな水色のぼかしを見るように四方に充ちわたッた。日没にはまだ半時間もあろうに、モウゆうやけがほの赤く天末を染めだした」。

読後、若き日の失恋の切なさが生々しく甦ってきました。