榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

縄文人は狩猟採集民ではなく、狩猟・栽培民だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1035)】

【amazon 『タネをまく縄文人』 カスタマーレビュー 2018年2月22日】 情熱的読書人間のないしょ話(1035)

あちこちで、雛人形を見かけます。

閑話休題、「縄文時代=狩猟採集社会、弥生時代=農耕社会」という常識に挑戦する書があると知り、慌てて、『タネをまく縄文人――最新科学が覆す農耕の起源』(小畑弘己著、吉川弘文館・歴史文化ライブラリー)を手にしました。

縄文土器を成形する際に粘土中に紛れ込んだダイズとコクゾウムシの痕跡が、縄文人は狩猟採集民という常識を覆したというのです。

「最近の我が国における古民族植物学の調査成果は、ダイズやアズキが縄文時代に栽培化したことを明らかにした。筆者らは、2007年11月、長崎県島原市大野原遺跡から出土した縄文時代後期中頃の太郎迫式土器の底部内面から検出した、カキの種子のような大きく扁平な圧痕が栽培ダイズであると発表した。それまでダイズは、農学や考古学においても、その起源地は東北アジアにあり、それが弥生時代になって稲作とともにやってきたと考えられていた」。

「北陸地方・中部地方・西関東地方のダイズやアズキの圧痕のサイズから見て、縄文時代中期に大型化することから、縄文時代の前期の終わり頃には栽培が開始されていたようである。そして、縄文時代中期末にはこれら地域で遺跡数が激減するため、ダイズやアズキの栽培が次第に西日本の方へ拡散していく様子をうかがうことができる」。縄文人たちは、私たちが考えていたのより古くから植物を栽培する術に長けた人々だったいうのです。

「マメ類のような一年草に限らず、クリやウルシなどの木本類に至るまで、多様な植物を操る栽培技術の高さと、栽培・管理植物が彼らの生活の中で果たした役割を重視して、縄文人を『狩猟・栽培民』と再定義したい」。

「米などの穀物につく害虫を貯穀害虫という。その代表格がコクゾウムシである」。

しかし、イネおよび稲作の受容時期は縄文時代後期までは遡らないことが研究者の間で定説となっています。それでは、縄文時代の遺跡から発見された縄文土器の圧痕コクゾウムシは、いったい何を食べていたのでしょうか。「彼ら(コクゾウムシ)の祖先の本来の生態、生育実験の結果、予想される縄文時代の乾燥貯蔵可能な食料などを総合的に判断すると、その加害対象物はクリやドングリであったと考えられる。それ以外にダイズやアズキ、またはササの実など、乾燥保存ができる食料も彼らの加害対象となっていた可能性がある」。

本書のように、科学的に常識に挑戦する著作は、私たちの知的好奇心を激しく揺さぶります。