榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

女と男の関係を鋭く抉り出す時実新子の川柳・・・【山椒読書論(357)】

【amazon 『有夫恋』 カスタマーレビュー 2013年12月24日】 山椒読書論(357)

時実新子(しんこ)の川柳は、女と男の関係の断面を鋭く抉り出す。

句集『有夫恋――おっとあるおんなのこい』(時実新子著、朝日新聞社。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)からは、恋する女、夫を疎(うと)む妻の情念がめらめらと立ち上ってくる。

・爪を切る時にも思う人のあり
・悲しさにぐしゃぐしゃぐしゃと顔洗う
・われに棲む女をうとむ夜が来る
・力の限り男を屠(ほふ)る鐘を打つ
・まっすぐに煙が上がる日の孤独
・凶暴な愛が欲しいの煙突よ
・五月闇(さつきやみ)生みたい人の子を生まず
・男一人を埋ずめる穴を掘り急ぐ
・ある夜は多情の牝(めす)を身のうちに
・靴の紐 男の帰心見ていたり
・罪あればあかつきの汗満身に
・乳房つんつん私に背き恋をする
・ふたたびの男女となりぬ春の泥
・妻をころしてゆらりゆらりと訪ね来よ
・鬼と暮らして鬼のふんどし洗いおり
・カザノヴァに逢いたや指の反(そ)るほどに
・愛咬(あいこう)やはるかはるかにさくら散る
・ののしりの果ての身重ね 昼の闇

時実新子に煽られて、私も一句――小言言う妻の口元いとをかし。