榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

アランの著作そのものよりも魅力的な解説書・・・【山椒読書論(375)】

【amazon 『アランの言葉』 カスタマーレビュー 2013年12月31日】 山椒読書論(375)

フランスの哲学者・アランの『精神と情熱(本によっては、情念)に関する八十一章』『幸福論』『人間論』などは、いずれも味わい深いが、ビジネスパースンには『アランの言葉――ビジネスマンのための成功哲学』(加藤邦宏著、PHP研究所。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を薦めたい。

本書は、アランの熱烈なファンである著者が、アランの言葉をビジネスパースン向けにまとめたものであるが、不思議なことに、アランの著作そのものよりも魅力的に仕上がっている。原典よりも解説書のほうが面白いなどということは本来あってはならないことだが、この著者を責めるわけにはいかないだろう。

例えば、アランの「私は原則中の原則として、こう主張する。太っ腹に相手を信用してかかり、美点をさがすのでなければならぬと。人間に期待をかける人こそ、もっともよく報いられるのである」という『人間論』の一節について、著者は、「『あいつはすばらしいことをやるだろう』と本気で期待すれば、その期待は実現する公算が大きい。相手はせっかくの相手のイメージをこわさないように懸命に努力することになる。人は信用されたら裏切れない。・・・太っ腹に相手を信用してかかり、美点をさがす、これこそ原則中の原則だとアランはいう」とコメントしている。

アランの「おろかな人は、耳を動かすだけで行こうとしないロバにも似ている、と私はいいたい」という『人間論』の一節について、著者はこのように解説している。「賢明な人とおろかな人、どこが違うか。アランにいわせればそれは行動するかしないかの違いである。賢明な人はまずともかく行動し、行動しながらさらに有効な行動をさがす。おろかな人ははじめから行動しない。あるいはちょっとやってみて、うまくいかないといってすぐに投げだしてしまう。・・・たとえば、一回歌ったら人に笑われたという理由で音楽を嫌いになる人がいる。この人は気が短いだけではない。ごう慢で、謙虚さが足りないのである。初めは誰だってうまくいかないのが当たり前なのに、自分にはそれができると思ってしまったのである。もっと率直に、柔軟に、謙虚になるべきではないかとアランは教える。まずなによりも体を動かして行動すべきだと彼はいう。しかもしんぼう強く、継続的に行動することをすすめている」。

こういう素晴らしい本が出版元品切れになるとは、誠に残念だ。