榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

老境の山田風太郎が、「死」を自分に納得させるために持ち出した「地球死滅の日」・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1764)】

【amazon 『あと千回の晩飯』 カスタマーレビュー 2020年2月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(1764)

ルリビタキの雄の若鳥あるいは雌を近くから撮影することができました。雄の若鳥と雌の識別は専門家でも難しいそうです。コゲラ、ウソの雌、モズの雌、シロハラの雄をカメラに収めました。突然現れ、物陰に駆け込んだニホンイタチの背中の一部しか写せず、残念無念。因みに、本日の歩数は10,360でした。

閑話休題、『あと千回の晩飯――山田風太郎ベストコレクション』(山田風太郎著、角川文庫)に収められている『あと千回の晩飯』は、79歳で亡くなった山田風太郎の72~74歳時のエッセイ集です。『人間臨終図巻』(山田風太郎著、徳間文庫、全4巻)を著すなど、死に強い関心を抱いていた山田にとって、老境、病気、死が主要なテーマとなるのは当然のことでしょう。

私にとって最も興味深いのは、山田の死生観そのものと、それを自分に納得させるために「地球死滅の日」を持ち出していることです。

「『神曲』の地獄篇や仏教の八大地獄などを考え出した人類の脳もすごいが、それにもかかわらず、何千年かの地獄天国存在時代に洗脳されず『死後は無』と抵抗するグループがあったとは、これまた人類はすごいといわざるを得ない。実は私も後者のグループの一人だ」。

「私は、来世はないものと決めこんでいる。卑小な私にないばかりか、あらゆる人間に来世はない。それどころか私はとんでもない空想をめぐらす。それは地球死滅の日である。あと億兆年ののち、地球が死滅する時がくる。空想ではない。必ずくる現実だ。そして地球上のあらゆる生物のみならず、そのときまで人間の作りあげたすべての大歴史、大文明、大芸術、大科学は一片のかけらも残さず死滅する」。

「未来で絶対確実視されることはほとんどないが、地球の死滅はまちがいない事実である。・・・地球の死滅後、生物の一匹も生きていない暗黒の宇宙に、未来永劫にわたって、あらゆる星座が音もなく運行しているだけの世界が来るということになる。もっとも、そのときまで人類が生きているということはあるまい。地球の死滅は、太陽の衰弱から来るにちがいない。・・・時間的にも空間的にも、無限につづく死の大宇宙。来世があるとするなら、これがまちがいのない来世の姿だ。それを空想すれば、やがて来る自分の死など、虫一匹にもあたらない――と、考えることにする」。

著者自身も、このエッセイ集の他の箇所で、地球滅亡は「何十億年かのち」と書いているが、「億兆年ののち」よりはこちらのほうが正確と言えるでしょう。