榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

膵臓がんになったら、この治療法を選択することに決めた・・・【MRのための読書論(99)】

【Monthlyミクス 2014年3月号】 MRのための読書論(99)

がんになったら

膵臓がんになったら、粒子線治療を選択することに決めた。なぜなら、①手術をしない、②ピンポイントでがん細胞のDNA(=がん細胞のコピー機)を切断する、③正常な細胞・組織を傷つけない、④治療後の社会復帰に支障を来さない、⑤完治が期待できる――と、いいこと尽くめだからである。

テレビ番組「カンブリア宮殿」で菱川良夫の取り組みを知り、『がんは治る!」時代が来た』(菱川良夫著、PHP研究所)で、さらに理解を深めることができた。

「現在の日本では、一生の間に2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんによって死亡する――というデータが出ています。この割合は今後さらに高まることが予測され、現時点ですでに『一生の間にがんを経験する割合は過半数を超えている』と分析する医師もいるほどで、この本を読んでいるあなたも例外ではありません」。

がん3大治療法

がん3大治療法として、手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法が挙げられているが、化学療法について、「近年、『分子標的治療薬』という新しいタイプの抗がん剤が開発され、話題を集めています。これはがん組織にだけ現れるタンパク質にくっついて攻撃するというもので、従来の絨毯爆撃からピンポイント攻撃へと戦略を変えた画期的な治療薬といえるものです。治療効果が高い上に、副作用は小さく、安全で精度の高い化学療法が可能になりました」と述べるなど、著者の公平な記述には好感が持てる。

放射線治療には、●小線源治療、●ガンマナイフ、サイバーナイフ、ノヴァリス(定位放射線治療)、IMRT(強度変調放射線治療)、●粒子線治療――があり、粒子線治療には、陽子線治療と炭素イオン線治療(重粒子線治療)がある。著者は、自分が推進中の陽子線治療に焦点を絞って説明を展開している。

陽子線治療

「従来の放射線治療がエックス線やガンマ線とよばれる『光子線』を使っていたのに対して、陽子線や炭素イオン線といった『粒子線』を使って行われる放射線治療。狙った臓器よりも先に突き抜けていく性質を持つ光子線に対して、粒子線は体の一定の深さで止まるという特徴があり、これを生かして周囲の正常組織に影響を与えることなく、がんの病巣だけを正確かつ強力に攻撃することができる治療法です。巨大な装置を必要とし、現在、日本に11カ所の治療施設があります。他の放射線治療法が1つの装置につき患者さんも1人に限定されているのに対し、粒子線治療は治療室の数だけ並行して治療が可能で、その分多くの患者さんを受け入れることができます」。

「医学が発展し、がんへの攻撃力については一定の水準に達した今、次のステップとして、攻撃力はそのままで、患者さんが受けるダメージを極力小さなものとする――という大きなテーマが医療の世界を支配するようになりました」。すなわち、低侵襲治療という考え方である。実際、1回の照射は約1分間で、痛みも熱も感じない完全無痛かつ強力な治療法だと、著者は胸を張る。

しかし、マイナス面もある。●現状は健康保険が適用されない自由診療のため、約300万円という高額な費用がかかること、●治療期間が長期――前立腺がん:8週間、頭頸部がん、膵臓がん:5週間、肺がん、肝臓がん:2週間――に亘ること(ただし、照射が終われば、その後は自由時間なので、治療期間中も1日の大半は自由に動き回ることができる)、●胃がん、大腸がん、卵巣がん、膀胱がん、ならびに転移がんなどには不向きであること――である。

「私は、従来の標準治療を決して否定するつもりはありません。がんのタイプや状況によって、粒子線よりも優れた標準治療はあります。また現段階では粒子線治療でも対応できないがんがあることも事実です。そうしたそれぞれの治療法の得意な部分と不得意な部分をお互いに補い合って、結果として全体の治療成績が高まればいいと思います」。粒子線治療という辛くない、楽な治療プロセスを選択肢の一つとして加えてほしい、これが著者の切なる願いなのだ。著者のこの姿勢は、患者、患者予備軍、そして将来の患者候補にとって力強い励ましメッセージとなるだろう。