掛け替えのない命の大切さが胸に迫ってくる絵本・・・【山椒読書論(467)】
『6さいのおよめさん』(鈴木中人文、城井文絵、文屋)は、病気と懸命に闘う娘を愛おしむ思いに満ちている。
「ケイコちゃんは、小児がんという病気で入院しています。いたい注射を毎日します。でも、あばれることはしません。注射が終わると、なみだを流しながらも『わたし、がんばったから』といいました」。ケイコちゃんは頑張り屋だ。
「ある日、ケイコちゃんはいいました。『お母さん、ごめんね。わたしが病気だから、ずっと病院にいなくちゃいけないね』」。ケイコちゃんは心優しい女の子だ。
やがて、ケイコちゃんは一人では歩けなくなってしまう。
看護師の結婚式に車椅子で出席し、ブーケをもらったケイコちゃんは、「きれいだね。わたしも早く、およめさんになりたい」と言う。ケイコちゃんは夢見る女の子だ。
暫くすると、ケイコちゃんは自分ではベッドから起きられなくなってしまう。
夏の日、6歳のケイコちゃんは、たった一人で天国に旅立つ。いよいよケイコちゃんと別れなければならなくなった時、お母さんがケイコちゃんに白いドレスを着せ、鬘とリボンを付けて、ブーケを持たせた。「6さいのおよめさん。ケイコちゃんの夢はかないました」。
ケイコちゃんが遺してくれた大切なことを多くの子供たちに伝えようと、お父さんは、「もし、あなたがいなくなったら、みんながどれほど なみだを流すか。とくに、お父さん、お母さんは、血のなみだを流すんだよ。だから、どんなことがあっても、お父さん、お母さんより、ぜったい 早く死んではいけない!! 『いのち』を大切にしようね」と呼びかけ続けている。文字どおり、父と母の血を吐くような叫びだ。
幼くして天国に召された娘を思う鈴木中人の抑制の利いた文章と、ほのぼのとした温もりに包まれた城井文の絵のハーモニーが、実に素晴らしい。母の手で白いドレスを着せられたおよめさん姿のケイコちゃん、雲に腹這いになって下界の皆を見下ろしている愛くるしいケイコちゃんに、思わず頬擦りしたくなってしまう。
一人でも多くの全国の子供たちに、親と一緒に本書を読んでもらいたい。そして、掛け替えのない命の大切さを知ってほしい。